花鏡『初心忘るべからず再考』の現代語訳からわかる|経営者が驕りと慢心を防ぐための思考習慣

中小企業に特化した「ニッチトップ戦略」の専門家、藤屋伸二です。
私はこれまで「ドラッカーの経営学」と「ニッチトップ戦略®」を組み合わせ、350社を超える中小企業の高収益化を支援してきました。
また、ドラッカー関連の書籍を45冊執筆し、累計発行部数は225.9万部を超えています。

経営がうまくいっているとき、人はつい安心して気を緩めてしまいます。
しかし、その瞬間こそ、次の危機の芽が生まれるときです。

世阿弥の「初心忘るべからず」は、単なる精神論ではなく、常に挑戦者として進化し続けるための“思考法”です。
ドラッカーもまた、「目標を達成したときは、次の準備に取りかかるとき」と述べ、成功の裏に潜む“慢心”を最も恐れるべきものとしました。

この記事では、古典と経営理論の両面から、経営者が「初心」を保ちながら成長し続けるための考え方を解説します。

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初心忘るべからず の原典

『花鏡』(かきょう)は世阿弥(ぜあみ:能の大家)が書いた能芸論書です。

そのなかの一説に有名な「初心忘るべからず」があります。

これは一般的に、「最初に始めた時の気持ちを大切にしなさい」と現代語に訳されています。



しかし原文は、「是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」です。意味は、

未熟だったときの芸も忘れてはいけない。また芸が上達しても、その時々にふさわしい芸に挑むということは、その段階においては常に初心者であり、やはり未熟さ、つたなさがある。さらに年齢を重ねたからこそ、わきまえるべきことがある。そのことを忘れてはならない。

です。

これは、経営にも当てはまりますね。

また、ドラッカーは、「目標を達成したときは、次の準備に取り掛かるとき」「流すような仕事をしてはいけない」と言っています。
さらに、『徒然草』(吉田兼好著)の中の「高名の木登り」でも、「高いところの作業では十分気をつけるが、降りてくるとき、もう少しというところになると気が緩んでケガをしてしまうことが多い」と言っています。

厳しい状況を抜け出して、「ホッとする」「緊張がゆるむ」のは、十分理解できます。

しかし、この段階で気を緩めるのは、「将来の業績不振の芽」を育てているようなものです。

驕りと慢心

経営者の大敵は、競争相手など外部にいるのではなく、自分の中にいます。

と言うことは、コントロールが可能と言うことです。

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」からです。

なお、驕(おご)りとは、勢いにまかせて行動すること。得意になっていばること。わがままなふるまい。思いあがりです。

一方の慢心(まんしん)とは、いい気になること、おごり高ぶることです。

「ウサギとカメ」の寓話にもあるように、絶え間ない進歩が目標達成に導いてくれます。

もっとも、現実の世界では、速いウサギのような人が努力してさらに速くなり、遅いカメのような人が怠けて遅いままでいるケースがほとんどですが。。。

経営者の仕事なのに惰性になっていないか?

私が主宰する【藤屋式ニッチトップ戦略塾】では、多くの経営者が「何かを変えたい」という想いを持って入塾されます。

最初は真剣そのもので、課題提出も早く、コメントへの反応も熱心です。

しかし、成果が出て当面の問題が解消すると、徐々に課題提出が遅れ、出席が減り、次第に「こなす」だけになってしまう方が出てきます。

経営者は、苦境を乗り越えたときに「私ってすごい」と思ってしまう瞬間があります。
それは自然なことですが、同時に最も危険な状態でもあります。

経営とは、緊張と緩和の繰り返しです。
どれほど厳しい局面でも、どれほど順調な時期でも、“挑戦者の姿勢”を失った瞬間に、成長は止まります。

座右の銘を持つ

驕りや慢心にならないように、周囲から指摘してもらう状況をつくっておくことも重要ですが、自らを律し、座右の銘(戒める仕組み)をつくっておくことです。

ニッチ先生においての仕組みが「ドラッカーの定期的な再読」です。

ちなみに、ドラッカーは経営の原理・原則を教えてくれるだけでなく、生き方まで教えてくれます。

もっともニッチ先生は、驕りや慢心になれるほどの状況ではないので、驕ったり慢心になったりする心配はありません。

それでも、ときどき勘違いすることはあります。

そして、「俺ってすごい!」と思うのですが、すぐそのあとには、「僕ってバカだ!」の状態が必ずきます。

それで、妙にバランスが取れているようです(苦笑

気が緩みそうになったときは、世阿弥の「是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」

ドラッカーの「目標を達成したときはお祝いをする時ではなく、次の準備に取りかかるとき」「流すような仕事をしてはいけない」

吉田兼好の「高いところの作業では十分気をつけるが、降りてくるとき、もう少しというところになると気が緩んでケガをしてしまうことが多い」を思い出してください。

経営者は現役でいる限り、常に「初心忘るべからず」「目標を達成したときは、次の準備に取り掛かるとき」の精神で、仕事に取り組むべき存在だと再認識しましょう。

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