ザ・ゴール|改善の成果は、自社の利益になっているか

この本は、何を教えてくれたか

エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・ゴール』が出版されたのは、1984年です。

物理学者が書いた、小説の形をとった経営書でした。
邦訳が出たのは2001年。原著から17年が経っていました。

この本が扱ったのは、工場です。
ただし、工場の改善手法の本ではありません。
冒頭で、主人公は問われます。

あなたの会社の目標は何か

品質でも、生産性でも、技術でもない。
企業の目標は、利益を上げることだ。

そこから、すべての判断基準が組み直されていきます。

企業を図る3つの指標

ゴールドラットは、企業を測る指標を3つに絞りました。

  • スループット:販売を通じて、システムが利益を生み出す速さ
  • 在庫:販売するものを購入するために投資した、すべての金額
  • 業務費用:在庫をスループットに変えるために費やす、すべての金額。

改善案が会社全体にとって良いかどうかを、この3つがどう動くかで見る。
ここで大事なのは、スループットの定義です。
販売を通じて、という条件が入っています。

  • つくっただけでは、スループットになりません
  • 倉庫に積み上がった製品は、利益を生んでいない在庫(コスト)です。

部分最適という落とし穴

この定義から、当時の常識がひっくり返ります。

  • 各工程の稼働率を上げる
  • 機械を遊ばせない
  • 1人あたりの生産量を増やす。

どれも、現場では「良いこと」とされてきました。
しかし、後の工程が受け取れない量をつくれば、それは在庫になります。

稼働率を上げるほど、資金は在庫に変わっていく。

部分を最適化しても、全体は良くならない。
むしろ悪くなることがある。

もっとも生産性が劣る工程に集中する

では、何をすればよいのか?
工場全体の流れを決めているのは、全体の生産量を制限している工程です。
そこが制約になります。

制約になっている工程以外の工程をいくら速くしても、制約の工程を通過できる量が増えなければ、工場全体の生産量は増えません。
制約が1時間止まれば、工場全体が1時間止まったのと同じです。

ここから、5つの集中ステップが示されます。

  • もっとも劣っている工程を見つける
  • その工程を徹底的に改善する
  • 他のすべてを、その改善された制約工程に整合させる
  • 改善された工程の能力を高める
  • 一連の制約が解消したら、次の劣っている工程を見つける
  • 思い込みにとらわれずに。

最後の一行が効いています。
制約している工程は、動きます。
1度改善すれけば、別の工程が最も劣る工程になります。

改善は、終わりのない過程になります。
原題の副題も、"A Process of Ongoing Improvement" (継続的改善プロです)でした。

ゴールドラットが解こうとした問題は何か

1つの問いにまとめます。

改善を、どうすれば会社の儲けにつなげられるのか?

  • 現場は改善している
  • 指標も良くなっている
  • それなのに会社は苦しい

この矛盾を、ゴールドラットは、何を成果とみなすかを決めるところから始めました。

  • 部分最適ではなく全体最適で測る
  • 全体を決めているのは、最も能力が劣る制約になっている工程である
  • だから、その制約になっている工程の改善に集中する。

つまり『ザ・ゴール』は、改善と利益を切り離した本ではありません。
改善を利益につなげる筋道を示した本です。

では、自社にどう応用するか

ここから、自社に置き換えて考えてみましょう。

改善によって制約が改善されれば、次に取り組むべき工程も変わります。
TOC(Theory of Constraints:制約理論)でいう制約は、工場の設備だけとは限りません。
市場の需要が制約になることもあります。

そして、スループットは、つくった量ではなく、販売を通じて生まれた利益で測ります。

つまり、工場の改善だけを見ていても、会社全体の成果は判断できません。
ここまでが、TOCの考え方です。

そこで、このシリーズでは、もう1つ問いを加えます。
これはゴールドラットが立てた問いではありません。
藤屋式ニッチトップ戦略が立てる問いです。

改善によって生まれた成果を、自社はどこまで利益として受け取れているか?

現場は速くなった。納期も短くなった。
では、その成果のうち、自社はどれだけを利益として受け取れているか。

ここは、工場の中を見ても分かりません。
事業全体を見る必要があります。

御社は、他社と比べられていないか

3つだけ、確認してみてください。

  • 相見積もりを求められることはないか?
  • 業界相場が価格の基準になっていないか?
  • 他社の名前が出てくる商談はないか?

技術力の違いは、選ばれる理由になります。
しかし、他社と比べられる状態が残っていれば、価格と取引条件まで自社で決められるとは限りません。

問うべきなのは、技術力があるかどうかではありません。
その技術力が、価格と取引条件の主導権にまでつながっているかどうかです。

もう1つの視点

では、価格と取引条件の主導権を持つために、どんな視点があるのか?
ここで、もう1つの考え方があります。

同じ物差しの上で、より高い評価を得ようとするのではなく、そもそも同じ物差しで比べられにくい市場地位をつくるという考え方です。
ドラッカーは、こうした位置をエコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)として論じました。

藤屋式ニッチトップ戦略では、この考え方を、モノづくり企業の事業設計に落とし込みます。

戦略設計の6変数を、1つのシステムとして設計する

ただし、その市場地位は、強みだけでも、市場選びだけでもつくれません。

強み×商品×提供方法×価格×顧客層&市場×メッセージ発信

この6つを、別々に考えるのではなく、1つのシステムとして整合させます。

問うのは、一つひとつが他社と違うかどうかではありません。
戦略設計の6変数を掛け合わせた結果として、他社と同じ物差しで比べられる状況から抜け出せているかどうかです。

自社の事業を点検する

戦略設計の6変数を1つの事業として整合させるには、御社で当たり前になっていることも、問い直す必要があります。

  • この価格は、どうやって決まったのか?
  • この売り方を、なぜ続けているのか?
  • この顧客に、なぜ応えているのか?

長く続けてきたことほど、理由を問い直す機会は少なくなります。
自社だけで考えていると、問い直しにくいところでもあります。

藤屋式ニッチトップ戦略では、藤屋から質問とアドバイスを受けながら、自社の事業戦略を設計します。
進め方は、2つあります。

短期間で、コンサル的に設計する藤屋式ニッチトップ戦略|設計プロジェクト

自社だけの場で、自社の事業に集中して設計します。
技術、顧客、価格、取引条件など、他社と同じ場では話しにくいところまで踏み込んで、事業を組み立て直します。

継続して、設計・検証・修正を続ける:藤屋式ニッチトップ戦略塾

設計して、実行して、現実に照らして、また直す。
これを続ける場です。
藤屋に加えて、経営者仲間からも質問とアドバイスを受けながら取り組みます。

※ 藤屋式では、売上の拡大を先に置く「増収増益」ではなく、価格と取引条件の主導権を先に取り戻す「増益増収」と考えます。
売上を増やして確実に増えるのはコストであり、利益が増えるとは限らないからです。

名著シリーズ 各回へのリンク

第1回 ポーターの競争戦略|価格と取引条件を誰が決めているか

第2回 コア・コンピタンス|強みは、価格と取引条件に反映されているか

第4回 ブルー・オーシャン戦略|ブルーオーシャンは、どうすれば続くのか

第5回 イノベーションのジレンマ|いまの商品を、自ら陳腐化できるか

第6回 ドラッカーの顧客の創造|どんな顧客を、創るのか

合わせて読む

藤屋式ニッチトップ戦略とは