他社がやりたがらない仕事は、事業機会になるか

売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。

他社が断った仕事が、回ってくる

「どこも受けてくれなくて」と言われて、相談が来ます。

  • 形状が複雑
  • 材質が特殊
  • 数量が少ない
  • 納期が短い
  • 試作段階で仕様も固まっていない

他社が断るのも分かります。
手間がかかる仕事だからです。

自社は受けてきました。
技術的にはできますし、困っている顧客に応えたい。
そういう仕事を積み重ねて、今の取引先ができました。
ただ、それが事業として成り立っているかというと、はっきりしません。

  • 手間の割に、単価は上がらない
  • 現場の負荷は増えている
  • それでも断れば、その顧客との関係が切れるかもしれない

他社がやりたがらない仕事は、事業機会になるのでしょうか。

なぜ他社はやりたがらないのか

同じ「他社が断った」でも、理由は同じではありません。

現在のやり方では採算が合いにくいから。
手間に対して得られる価格が低い。

そのまま引き受ければ、自社も採算が合いにくくなります。
ただし、自社だけが手間の発生原因を減らせるなら、意味は変わります。

  • 設備や技術がないから
  • その加工ができる機械を持っていない
  • 扱ったことのない材質である

この場合、自社に必要な設備や技術があれば、対応できる会社は限られます。

  • 事業上の優先順位が低いから
  • 技術的にはできる。しかし、他に大きな仕事がある
  • 段取り替えや管理の手間まで考えると、自社の事業としては優先順位が低い

この場合、仕事そのものに問題があるとは限りません。

  • リスクを負いたくないから
  • 責任範囲が曖昧
  • 不具合が出たときの負担が読めない
  • 要求が固まっていない

この場合、責任範囲や取引条件をどう設計するかで判断が変わります。

理由によって、意味は変わります。
重要なのは、他社が断ったという事実だけを見ることではありません。

  • なぜ断ったのか
  • その理由を、自社は解消できるのか

ここが分かれ目です。

受注するだけでは、事業にならない

他社が断る仕事を受けられること自体には、価値があります。
顧客は困っています。他に頼める先が少ないから相談に来ています。

ただし、他社がやりたがらないことを引き受けているだけだとします。
そのときは、自社の負荷が増えることがあります。

確認することがあります。
継続して応える形になっているか。
一件ごとに現場が無理をして成立しているなら、仕事が増えるほど社員が疲弊します。
設備、工程、設計ルールなどを含め、その形になっているかを見ます。

価格と取引条件の面でも、継続して応えられるか。
他社が断る仕事を、通常と同じ条件で引き受けるとします。
その難しさをすべて自社が負担していれば、続けるほど苦しくなります。

次に使えるものが残るか。
同じ案件が繰り返すとは限りません。
それでも、一件の経験が次の仕事にも使える形で残るとします。
そのときは、自社の力として蓄積できます。

  • 顧客にとって価値があること
  • 自社が継続して応えること
  • 価値に見合う価格と取引条件を設計できること
  • そして、経験が次へ使える形で残ること

そこまで見て、事業として育てるかを判断します。

小ロットを引き受けるのではなく、初期コストがかかる原因を変える

2018年版ものづくり白書に、エレファンテック株式会社が紹介されています。
同社は、フレキシブル基板の製造サービスを展開する企業です。

従来の電子回路は、基板の全面に金属を貼ります。
そして、不要な部分を取り除く方法でつくられます。

これに対してエレファンテックは、別の製法を開発しました。
必要な部分にだけインクジェットで金属を印刷し、めっきで金属を成長させます。
ものづくり白書は、この製法の特徴を紹介しています。

  • 既存のフレキシブル基板と比べて、型が不要で初期コストがかからない
  • 工程数が少なく、生産スピードが速い

その特徴を生かし、小ロット品や試作用途を皮切りに活用が進んでいました。
ここで見るべきなのは、「小ロットでも受けます」と言ったことではありません。
小ロット生産の負担を、そのまま引き受けたことでもありません。

小ロットで負担になりやすい原因の一つが、初期コストです。
それを、製造方法そのものを変えることで小さくしました。

従来のやり方のまま、手間だけを同社が負担したのではありません。
仕事がやりにくくなる原因の側を変えています。

もちろん、ものづくり白書にそう書かれているわけではありません。
「他社が小ロット案件を断っていた」という記述はありません。

また、この事例だけでは判断できないこともあります。
同社が価格や取引条件の主導権を持っているかどうかです。

確認できるのは、次のことです。
従来製法にあった初期コストや工程数という条件を、新しい製法によって変えた。
そして、小ロット品や試作用途で活用されるようになった。

ここで見るべきなのは、難しい条件をそのまま引き受ける考え方ではありません。
なぜ難しいのかを分解し、その原因を変えるという考え方です。

(出典:経済産業省『2018年版ものづくり白書』)

ドラッカーは、他社が断る仕事をどう考えたか

ドラッカーは、企業家戦略の一つとしてエコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)を示しました。
藤屋式ニッチトップ戦略では、これを次の状態と捉えています。

他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズに、自社だけが応える状態。

「他社がやりたがらない仕事」は、この方向につながる可能性があります。
ただし、他社が断る仕事を探して、片端から引き受けることではありません。

  • なぜ他社はやりたがらないのか
  • その理由を、自社は解消できるか

そこまで考えます。
ドラッカーは、現実と認識のずれにも注目しました。
イノベーションの機会の一つとしてです。

業界の中で「そういうものだ」と受け入れられていることがあります。

  • この加工は手間がかかる
  • この数量では採算が合わない
  • この仕様には対応できない

供給する側では、それが当然になっている。
一方で、顧客には困りごとが残っていることがあります。

他社が断る仕事が、繰り返し現れるとします。
それは、供給側の前提と、顧客が必要としているものを見る材料になります。
その間に、ずれがないかどうかです。

エレファンテック株式会社の事例でいえば、従来の製造方法には条件がありました。
型などの初期コストがかかることです。
その前提をそのまま受け入れてはいません。
製造方法を変えることで、原因そのものに手を入れています。

そこに、イノベーションの可能性があります。

モノづくり企業の場合

他社が断った仕事が来たとします。
そこで確認するのは、その仕事を受けられるかどうかではありません。

  • なぜ他社は断ったのか
  • 現在のやり方では採算が合いにくいのか
  • 設備や技術がないのか
  • 事業上の優先順位が低いのか
  • リスクを負いたくないのか
  • その理由を、自社はどう解消できるか
  • 設備があるから解消できるのか
  • 工程を変えれば手間を減らせるのか
  • 標準化すれば継続して応える形にできるのか
  • 責任範囲や取引条件を決めればリスクを管理できるのか
  • それとも、現場の頑張りで吸収しているだけなのか
  • 顧客の側で何が起きているか
  • その仕事ができないことで、顧客は何を困っているのか
  • 応えることで、顧客にどのような価値が生まれるのか

そのうえで、事業全体で判断します。
事業を構成しているのは、次の戦略設計の6変数です。

強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

他社が断る仕事に応えることだけを、提供方法の問題として考えません。

  • そのニーズに応える力が自社の強みとして蓄積するのか
  • それを商品や仕組みとして再現できるのか
  • そのニーズを持つ顧客層&市場は、目指す事業の対象なのか
  • 価格と取引条件の面でも、継続して応える形になっているのか
  • そして、自社がそこに応えていることを、必要としている顧客に伝えられるのか

6変数の一つだけを見て決めることはできません。

断られた仕事だけではなく、断られた理由を見る

他社がやりたがらない仕事は、事業機会になるか。

なることもあれば、ならないこともあります。
他社が断ったという事実だけでは決まりません。

見るのは、他社が断る理由です。
そして、その理由を、自社はどう解消できるのか。

エレファンテック株式会社のように、原因そのものを小さくできる場合もあります。
従来は負担になっていたものを、製造方法を変えることで小さくしています。

反対に、原因を変えず、現場の頑張りだけで吸収しているとします。
そのときは、仕事が増えるほど負荷も増えます。

他社が断る仕事を探すのではありません。
他社が断る理由を分解し、その理由を自社は解消できるのかを見る。

  • 今、受けている「他社が断った仕事」は、なぜ断られたのでしょうか?
  • その理由を、自社は仕組みとして解消できているでしょうか?

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