差別化できる技術力なのに、なぜ価格で比べられるのか
売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。
違いはある。それでも、価格の話になる
自社の技術には、他社との違いがあります。
- 加工できる範囲が広い
- 精度が高い
- 難しい案件を任される
実際、他社が断った仕事が回ってくることもあります。
それでも、見積もりを出せば価格の話になります。
相見積もりに入り、他社の金額を示され、調整を求められる。
技術の違いは、受注の条件ではあるけれど、希望する価格までには反映されません。
差別化できる技術力があるのに、なぜ価格で比べられるのでしょうか。
違いがあることと、比べられないことは別
区別しておきたいことがあります。
技術に違いがあることと、他社と比べられない状態にあることは、別のことです。
顧客が3社を並べたとします。
それぞれの技術に違いがあっても、同じ物差しの上に載っていれば比較は成立します。
A社はこの精度、B社はこの精度、C社はこの精度。
違いはあります。
しかし、その違いを同じ基準で測れるなら、比べられます。
そして、測れる違いであれば、顧客は比較を続けることができます。
「その違いに、どこまで追加で払うか」という比較です。
つまり、技術に違いがあることは、比較を止める理由にはなりません。
技術差そのものが、比較材料になることもあります。
相見積もりの条件は、いつ決まっているか
では、どういうときに、顧客は同じ物差しで比較しやすくなるのでしょうか。
- 用途が同じとき:同じ機械の、同じ場所に使う部品なら、比べる対象がそろいます
- 仕様が固まっているとき:図面があり、材質が決まり、公差が指定されているとします。それを満たすかどうかで判断できます
- 選定の基準が決まっているとき:その業界や顧客企業で、何を見て選ぶかが定まっているとします。各社を同じ基準に当てはめられます
- 見積もりの形式が同じとき:同じ項目で複数社の見積もりを並べれば、違いを比較しやすくなります
これらは、顧客が比較するときの条件です。
仕様書を受け取って見積もる段階を考えます。
そこでは、用途や仕様という比較条件の多くが、すでに顧客側で決まっています。
その状態で、競合する会社も仕様を満たせるとします。
そのときは、技術力の高さだけで比較を止めることはできません。
価格も、最優先の判断材料として残ります。
同じ物差しの上で技術力を高めても、条件は変わらない
そこで、さらに技術力を高める方向へ向かうことがあります。
- 精度を上げる
- 加工できる範囲を広げる
- 新しい設備を入れる
いずれも必要な投資になることがあります。
ただ、同じ物差しの上で技術力を高めたとします。
それでも、顧客が比較するときの条件そのものが変わるとは限りません。
- より難しい案件を受けられるようになる
- 他社より高い精度を出せるようになる
- それ自体には価値があります
しかし、顧客が複数社を「同じ仕様を満たせる会社」として並べられるとします。
そのときは、比較が残ります。
しかも、技術差がずっと維持されるとも限りません。
他社も設備を入れ、技術を磨きます。
つまり、技術力を高めることと、比べられない位置をつくることは、別の作業です。
仕様が決まる前から、顧客と一緒につくる
2020年版中小企業白書に、大阪府の株式会社スタッフが紹介されています。
同社は、電子機器や機械の開発・設計、試作、量産などを支援する会社です。
白書は、同社が着目した事業を紹介しています。
大企業などに製品アイデアがあっても、採算が合わないことがあります。
自社の設備や人員を使って製品化する場合です。
そうしてアイデアが埋もれてしまうケースに着目しました。
株式会社スタッフは、顧客から完成した図面を受け取り、その通りにつくるだけではありません。
顧客が持つ製品コンセプトの段階から相談を受けます。
そして、企画、デザイン、基板設計、試作、量産までを一貫して支援しています。
試作段階でも、試作品を一つつくるだけではありません。
その後の量産を見越して設計します。
ここで注目したいのは、技術力の高さそのものではありません。
顧客との関わりが始まる位置です。
図面も仕様も固まった段階から入るのではありません。
複数社へ同じ条件で見積もりを依頼する段階のことです。
「こういう製品をつくりたい」という段階から関わっています。
- その段階では、何をつくるのか
- どうつくるのか
- どこからどこまでを一社で担うのか
は、まだ決まり切っていません。
仕様が決まった後に、加工会社として並ぶ場合があります。
仕様をつくる段階から関わる場合もあります。
この二つでは、顧客が各社を比較する条件も同じではありません。
もちろん、この事例だけから、株式会社スタッフが価格比較から外れているとまでは言えません。
白書から確認できるのは、製品コンセプトの段階から入っていることです。
そして、企画から量産まで一貫して関わる事業を展開していることです。
ただ、ここから一つのことが見えてきます。
技術力を高める以外にも、顧客と関わり始める位置を変えることができるということです。
比較の条件を考えるとき、これは重要な違いです。
(出典:中小企業庁『2020年版中小企業白書』)
ドラッカーは、卓越性と位置をどう考えたか
ドラッカーは、強みを成果につながるところへ集中させることを重視しました。
そこから卓越性が生まれると考えたからです。
あらゆる面で平均以上を目指すのではなく、強みを生かせるところに資源を向けます。
ただし、藤屋式ニッチトップ戦略で目指すものは違います。
同じ物差しの上で、他社より高得点になることではありません。
ドラッカーは、企業家戦略の一つとしてエコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)を示しました。
藤屋式ニッチトップ戦略では、これを次の状態と捉えています。
他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズに、自社だけが応える状態。
この位置は、技術水準の高さだけで決まるわけではありません。
技術そのものは、他社にもできることかもしれません。
それでも、他の要素との組み合わせによって、比べる意味が薄れることがあります。
モノづくり企業の場合
価格で比べられる状態から外れるとき、強化や変更するのは技術力だけではありません。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
その技術が大きな価値になる顧客は、誰なのか。
同じ技術でも、顧客によって意味は違います。
ある顧客には、必要以上の精度かもしれません。
別の顧客には、その精度がなければ製品そのものが成り立たないことがあります。
顧客と関わり始める段階も変えられます。
図面を受け取ってから見積もるのか。
それとも、仕様が固まる前から関わるのか。
何を商品として提供するかによっても、比較される単位は変わります。
単品加工として受ければ、単品の価格で比較しやすくなります。
設計や組立まで含めれば、顧客が購入しているものそのものが変わります。
価格は、業界相場や原価だけから決めるのではありません。
どのような条件の中で比較されているかによって、示せる価格も変わります。
そして、技術そのものを説明するだけではありません。
その技術によって顧客の側で何が変わるのかを伝えます。
一つひとつの変数に、他社にない独自性が必要なわけではありません。
戦略設計の6変数の組み合わせによって、顧客から見た事業の違いが生まれます。
技術差ではなく、比べられる条件を見る
差別化できる技術力があるのに、価格で比べられている。
そのとき、さらに技術を高めることだけが答えではありません。
技術に違いがあるとします。
それでも、顧客が同じ物差しで比較できる状態なら、価格は比較項目として残ります。
- 同じ用途
- 固まった仕様
- 共通する選定基準
- 並べやすい見積もり
こうした条件がそろうほど、顧客は各社を同じ物差しで比較しやすくなります。
だから見るべきなのは、技術差の大きさだけではありません。
自社が、どのような条件の中で顧客から比較されているかです。
その条件は、戦略設計の6変数の組み合わせによって変わります。
- 今、自社の技術は、顧客のどの物差しの上に載っているでしょうか?
- その物差しは、誰が、いつ作っているのでしょうか?
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