一つの市場で地位を築いた後、次はどこへ進むか

売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。

一つの市場で地位を確立できた。それで、次は?

一つの領域で、選ばれるようになりました。

  • その用途なら、まず声がかかる
  • 相見積もりになっても、価格だけでは決まらない
  • 無理な条件を断っても、取引は続いている

長い時間をかけて、ここまで来ました。
ただ、その市場が無限に広がるわけではありません。
取引先の数にも限りがあります。
用途そのものが縮んでいくこともあります。

そろそろ、次を考える時期かもしれない。
そう思ったとき、どこへ進めばいいのでしょうか。
選択肢はいくつもあります。

  • 似た用途に広げる
  • 別の業界に出る
  • 海外を見る
  • 新しい商品をつくる

正解はやってみるまでわかりません。
だから、問題は、何を基準に選ぶかです。

今の市場に、まだ余地はないか

次の市場を探す前に、確認しておきたいことがあります。
今の対象市場に、まだ伸ばす余地はないでしょうか。

  • 同じ用途の中に、まだ取引していない顧客がいる
  • 既存顧客の中に、まだ受けていない仕事がある
  • 商品や提供方法を組み替えれば、対応先を広げられる

外に出るより、今の領域を深めるほうがよい場合もあります。

  • 積み上げた経験があります
  • 顧客についての理解があります
  • 自社がどのような価値を生み出せるかも分かっています

一方、その市場自体が縮小しているなら、深めるだけでは限界があります。
だから、市場規模も見ます。
ただし、市場規模だけで次へ進むかどうかを決めるわけではありません。

今の対象市場の中に、まだ応える価値のあるニーズが残っているか?
自社が目指す事業に照らして、そこまで見て判断します。

新たな市場で、何が活かせるのか

新しい市場へ進むとき、前の市場で培ったもので、次の市場でも生かせるものがあります。

  • 技術
  • 設備
  • 経験
  • 設計や製造のノウハウ
  • 難しい要求に応えてきた過程でつくった仕組み

これまで培った強みと仕組みです。
ただし、それらが次の市場でも、そのまま同じ価値を生むとは限りません。

  • ある業界で高く評価された精度が、別の業界では必要以上かもしれない
  • ある顧客に重要だった短納期が、別の顧客にはそれほど重要ではないかもしれない

そして、もう一つ、次の市場へは移らないものがあります。
前の市場で築いた地位です。

今の市場で選ばれている理由は、その市場の顧客の側にあります。
自社の商品や応え方に、価値を認めているからです。
その認識は、長い時間をかけてつくられたものです。

新しい市場の顧客は、それを知りません。

そこでは、また「何ができる会社なのか」を確認されます。
他社と比較され、価格を聞かれるところから始まることもあります。

一つの市場で築いた地位は、次の市場には自動的には移りません。
すでに活かせそうな強みや仕組みをもっています。
それを新しい市場でどう活かすかを、もう一度考える必要があります。

自動車依存から、医療・半導体へ

兵庫県尼崎市の株式会社ヤマキンという会社があります。
同社は、金属加工・部品製造を手掛ける会社です。

2025年度の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選ばれました。
尼崎市は同社を、次のように紹介しています。
「自動車依存から脱却し、医療・半導体分野へ事業を多角化」した企業です。
同社が蓄積してきたものがあります。

  • 複合加工機を使った一気通貫の生産
  • さまざまな材質や複雑な難加工品への対応
  • 設備への独自改良
  • 工程集約
  • そして、メーカー製の機械にも独自の改良を加えています
  • 加工品の打痕や傷を抑える工夫を重ねてきました
  • 本社と第二工場の機能を分け、24時間稼働する生産体制も構築しています
  • 現在は、農機具、建機、医療機器、半導体機器などの部品を手掛けています

ここで見るべきなのは、市場名の変化だけではありません。
「自動車から医療・半導体へ」という変化のことです。

一つの対象市場への依存から離れるとします。
それでも、培ってきた加工技術や生産の仕組みまで捨てたわけではない。
それらを、別の対象市場でも生かしています。

ただし、この事例から、新しい市場で前と同じ地位をそのまま得られたとは言えません。
また、医療・半導体分野で事業の各要素をどう組み直したか。
そこまでは、公表資料からは確認できませんでした。

ここから先は、藤屋式ニッチトップ戦略で考える必要があります。

強みを活かして次へ進むことと、前の事業をそのまま横に広げることは違います。
新しい対象市場では、その強みを誰に、どの商品で、どの提供方法で生かすのか。
そこを改めて設計します。

(出典:中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者300社」、尼崎市)

ドラッカーは、次の展開をどう考えたか

ドラッカーは、成果を上げるには強みを活かすことが必要だと考えました。
新しいことを始めるからといって、ゼロから始める必要はありません。
これまで蓄積してきたものを捨てることはないからです。

一方、強みは、それだけで成果を生むわけでもありません。
顧客にとって価値になることで、成果につながります。

だからドラッカーは、二つの問いを置きました。
「われわれの顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」です。

藤屋式ニッチトップ戦略で次の対象市場を考えるときも同じです。
これまで培った強みや仕組みが、重要な出発点になります。

ただし、技術は活かせても、その技術の意味は市場によって変わります。
だから、前の市場で成功したやり方を、そのまま横展開するのではありません。
次の市場の顧客にとって、何が価値になるのかをもう一度考えます。

次の市場を選ぶ基準は何か

では、候補となる市場を何で選ぶのでしょうか。

一つ目は、自社の強みが大きな価値になる場所か

同じ技術でも、用途によって価値の大きさは変わります。
今の市場で自社の強みが価値になっている理由を分解します。
すると、似た問題を持つ別の用途が見つかることがあります。

二つ目は、その市場で、また比べられない位置をつくれるか

その市場に、他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズがあるか。
そのニーズに、自社の強みや仕組みを生かして応える可能性があるかを見ます。

三つ目は、次の市場へ入るために何が必要か

認証が必要かもしれません。
新しい設備が必要かもしれません。
その業界固有の知識を得る必要もあります。
持っている強みだけを見て、「この市場にも使えそうだ」と決めるわけにはいきません。

四つ目は、現在の事業を続けながら進められるか

新しい市場が成果を生むまでには時間がかかります。
現在の事業から生まれる利益や人材があります。
それを次の市場へどこまで向けられるかも判断材料になります。

市場規模も、自社の技術が使えるかも、成長市場かどうかも、すべて判断材料です。
ただ、その一つだけで次の対象市場を決めることはできません。
最後は、次の対象市場で自社がどのような事業をつくるのかに戻って判断します。

新しい市場では、戦略設計の6変数をもう一度組み直す

新しい市場へ進むというと、顧客層&市場を変える話に見えます。
しかし、変わるのは一つだけではありません。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。

強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

新しい市場では、商品を変える必要があるかもしれません。
仕様、材質、形状、単位。
その市場で求められるものに合わせて変わります。

提供方法も同じです。
設計段階から入るのか。
仕様が固まってから受けるのか。
認証や試験が必要なのか。
市場によって取引の成立条件が違います。

価格も、前の市場の単価をそのまま持ち込むわけではありません。
同じ技術でも、新しい市場で生み出す価値の大きさは変わります。
価格も、その市場で改めて考えることになります。

メッセージ発信も変わります。
前の市場で知られていても、新しい市場では知られていないかもしれません。
そこで何ができ、顧客にどのような価値を生み出せる会社なのか。
それを、新しい市場の顧客が判断できるように伝える必要があります。

つまり新しい市場へ進むことは、顧客層&市場だけの差し替えではありません。
活かせる強みや仕組みを出発点に、6変数をもう一度組み直すことです。

現在の市場地位を、そのままコピーしない

一つの市場で地位を築いた後、次はどこへ進むか。
まず、今の対象市場に、まだ自社が応える価値のあるニーズが残っていないかを見ます。

そのうえで、次へ進むとします。
探すのは、自社の強みが大きな価値になる対象市場です。
そして、また他社と比べられない位置をつくれる対象市場です。

ただし、前の市場で築いた地位を横にコピーすることはできません。
次の市場で活かせるのは、これまで培った強みや仕組みです。
しかも、それらが次の市場でも同じ価値を持つとは限りません。

だから、新しい市場では戦略設計の6変数をもう一度組み直します。
そして、その市場でも、他社と比較されない状態をつくっていきます。

それは、他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズに、自社だけが応える状態。

一つのニッチで培った強みや仕組みを活かし、別の対象市場に新たなニッチをつくる。
藤屋式ニッチトップ戦略では、この展開をマルチプル・ニッチトップと呼んでいます。
成功から得たものを使って、次の市場で新しい地位をつくる。

  • 今の市場で選ばれている理由を、どこまで分解できているでしょうか?
  • その中で、次の市場で活かせるものは何でしょうか?

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