自社の強みを、顧客の価値としてどう伝えるか
売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。
説明はしている。それでも伝わらない
会社案内には、設備の一覧が載っています。
保有している加工機、加工できる材質、取得している認証。
数値も入れています。
- 商談でも説明します
- 展示会でも同じことを話します
- 顧客は、うなずいて聞いています
それでも、最大の決定要素は価格のままです。
そうならないようにするためには、自社の強みを、顧客にとっての価値として、どう伝えればいいのでしょうか。
自社の言葉と、顧客の言葉
自社が説明しているのは、たいてい自社が何を持っているかです。
- 5軸加工機がある
- 公差は何μmまで出せる
- 難削材が扱える
- 一貫生産ができる
どれも事実です。
そして、自社にとっては重要なことです。
設備を入れ、人を育て、時間をかけて積み上げてきたものです。
一方、顧客が知りたいのは、自社と取引すると顧客の側で何が変わるかです。
- 工程が減る
- 手戻りが減る
- 在庫を減らせる
- 生産計画への影響を抑えられる
- これまで難しかった設計が可能になる
この二つは、地続きです。
ただ、そのままでは同じものになりません。
自社の設備や技術によって、顧客の側で何が起きているのか。
その「何か」まで具体化します。
そこで初めて、自社の強みが顧客にとって持つ意味が見えてきます。
三つの層に分けて考える
強みを顧客の価値に変換するとき、三つの層に分けて考えます。
- 自社が持っているもの:設備、技術、経験、体制、認証
- それによってできること:一度の段取りで複数面を加工できる。図面から短時間で見積もりを出せる。特殊な材質を扱える
- 顧客の側で起きること:複数工程をまとめられる。工程間の運搬や検査を減らせる。リードタイムを短くできる。これまで難しかった設計を実現できる
たとえば、
「5軸加工機を導入しています」は一つ目です。
「一度の段取りで複数面を加工できます」は二つ目です。
三つ目は、「複数工程を一度に加工できます」です。
「だから、工程間の移動や段取りを減らせます」まで書きます。
一つ目、二つ目も顧客の判断材料です。
設備や加工能力を確認しなければ、そもそも発注可能かどうかを判断できません。
ただ、それだけでは、その強みが顧客の側に何を生み出すのかまでは分かりません。
三つ目までつながって初めて、顧客にとっての意味が具体的になります。
自社の商品が、顧客のどこで役立っているかを見る
2024年版中小企業白書に、京都市の二九精密機械工業株式会社が紹介されています。
同社は、工業商品のコア機構部の開発・設計・製造を手掛ける企業です。
1917年の創業以来、金属の精密切削加工に携わってきました。
現在では半導体、医療機器、分析装置などの精密部品を手掛けています。
2009年には、βチタン合金の極細パイプ製造技術を世界で初めて開発しました。
この技術を活用した商品は、血球計測装置やカテーテル治療などに用いられています。
白書が同社の強みとして挙げているのは、提案型の技術開発です。
顧客の課題に寄り添ったオーダーメイドの開発です。
ここで注目したいのは、技術そのものだけではありません。
同社では、若手社員に顧客の工場を見学させています。
二九直晃社長は、顧客の声を従業員に伝えています。
自分たちがつくった商品が、どのように世の中の役に立っているか。
それをイメージすることが社員のやりがいにつながる、と考えています。
自社の工場だけを見ていれば、見えるのは加工技術や精度、設備です。
そこで、顧客の側を見ます。
その技術でつくられたものが、どこで、どのように使われているのかが見えます。
何に役立っているのかも見えてきます。
強みを顧客の価値として伝えるには、知る作業が先に要ります。
その強みが顧客の側で何を生み出しているのか、です。
(出典:中小企業庁『2024年版中小企業白書』)
■変換できないのは、表現の問題とは限らない
では、
- 自社が持っているもの
- それによってできること
- 顧客の側で起きること
の三つ目まで書けばいいのでしょうか。
ここに、この作業の難しさがあります。
三つ目を書くには、顧客の工程や使われ方を知っている必要があります。
- どの工程で使われているのか
- そこで何が起きているのか
- 自社の商品を使う前と後で、何が変わっているのか
これを知らなければ、一般的な言葉しか出てきません。
たとえば、「工程が減ります」「生産性が上がります」「コストが下がります」です。
つまり、強みを顧客価値に変換できないとき、原因は表現力ではないことがあります。
顧客の側で何が起きているかを、まだ知らない。
その可能性があります。
- 納品先を見る
- 担当者に聞く
- 自社の部品が次の工程でどう使われているかをたどる
このように、伝え方を工夫する前に、知る作業があるのです。
ドラッカーは、価値をどう考えたか
ドラッカーは、事業を商品からではなく顧客から見ることを求めました。
そして、「顧客にとっての価値は何か」を問い続けました。
ここで問われているのは、自社が何を提供しているかだけではありません。
顧客の側で何が生まれているかです。
ドラッカーは、成果は企業の外にあると考えました。
自社の設備も、技術も、体制も企業の内部にあります。
それらが顧客に使われることで、顧客の側に何らかの変化が生まれます。
だから、強みを伝える作業は、自社が持っているものの説明では終わりません。
その強みが、顧客の側でどのような意味を持っているのかまで具体化する。
そこまでが必要です。
そして、顧客が違えば、同じ強みでも意味は変わります。
つまり、強みが顧客に、どのような変換を起こすのか。
言い換えれば、誰に対して、どのような価値を生み出す強みなのか。
そこまで具体化する必要があります。
伝え方だけを直せばよいのか
一点、確認しておきたいことがあります。
変換とは、言い方を変えることではありません。
顧客の側で実際に何も変わっていないとします。
そのときは、どう言い換えても価値が生まれたことにはなりません。
一方、顧客の側では実際に何かが変わっているとします。
それでも、顧客の判断材料になっていないこともあります。
伝え方を見直すのが有効なのは、後者の場合です。
前者なら、伝え方だけを変えても解決しません。
商品、提供方法、顧客層&市場など、事業そのものを見直す必要があります。
モノづくり企業の場合
強みの伝え方を、メッセージ発信という一つの変数だけで考えないことです。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
誰に向けるかで、同じ強みが生み出す価値は変わります。
だから、対象とする顧客層&市場が曖昧なままだとします。
そのときは、「顧客の側で起きること」も曖昧になります。
商品と提供方法によっても変わります。
同じ技術でも、加工だけを請け負うのか、組立まで行うのか。
仕様が固まってから受けるのか、設計段階から関わるのか。
顧客の側で生まれる価値は同じではありません。
価格にもつながります。
ただし、伝え方が価格の根拠になるのではありません。
価格の根拠になるのは、特定顧客に実際に生み出している価値です。
その価値が顧客の判断材料になっていないとします。
そのときは、その価値を価格の根拠として顧客に伝えることはできません。
6変数はそれぞれが独立しているわけではありません。
強みを顧客の価値として伝えるとき、強みだけを見るのではありません。
メッセージ発信だけを変えるのでもありません。
戦略設計の6変数(強み×商品&商品構成×提供方法×価格×顧客層&市場×メッセージ発信)のつながりを見る必要があります。
知らなければ、具体的には伝えられない
自社の強みを、顧客の価値としてどう伝えるか。
言い換えの技術だけではありません。
- 自社が持っているもの
- それによってできること
- 顧客の側で起きること
この三つをつなげます。
そして、三つ目を具体的にするには、顧客を知る必要があります。
自社の商品が顧客の側でどう使われ、何を生み出しているのかを見る。
そこから、強みの意味が見えてきます。
- 今伝えている自社の強みは、顧客の側で何を変えているでしょうか?
- そのことを、どこまで具体的に把握しているでしょうか?
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