特注対応を、どこまで続けるべきか
売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。
特注が増えている
「これ、少し変えてもらえないか」という相談が来ます。
- 寸法を変える
- 材質を変える
- 形状を一部だけ変える
- 数量は少ない
技術的にはできます。
標準品では対応できない顧客の事情があり、他社では対応しにくい仕事かもしれません。
そうして特注が増えてきました。
ただ、そのたびに図面を確認し、加工方法を決め、段取りを組み替え、必要なら治具をつくり、検査方法を決めます。
手間はかかります。
それでも、単価を思うように上げられるとは限りません。
特注対応は、どこまで続けるべきなのでしょうか。
問題は、特注そのものではない
特注が利益になりにくい理由を、数量の少なさだけで考えると、「特注を減らす」という答えになりやすくなります。
しかし、特注そのものが問題とは限りません。
一品一様でも、その仕事から技術や設計ノウハウ、加工条件、顧客についての知識は蓄積できます。
問題は、一件の特注から得た経験が、次の仕事に使える形になっているかです。
- 一件目で図面を起こす
- 加工方法を考える
- 治具をつくる
- 検査方法を決める
- 似た特注が来たときにも、また最初から同じことを考える
これを繰り返していれば、仕事を受けるたびに負荷が発生します。
一方、一件目で得たものを、部品、工程、設計ルール、治具、検査方法、見積基準などに変えておけば、次の仕事では使えるものがあります。
特注を受けたことではなく、受けた特注から何を残したか。
ここに違いがあります。
それでも、特注には意味がある
特注には、顧客がそれを必要とする事情があります。
- 標準品では成立しない設計
- 既存設備との取り合い
- 試作段階で数がまとまらない
- 使用環境が特殊で、一般仕様では対応できない
その事情に応えること自体が、顧客にとっての価値になることがあります。
しかも、小ロットや仕様変更を伴う仕事は、量産を中心とする会社には対応しにくい場合があります。
ドラッカーは、企業家戦略の一つとしてエコロジカル・ニッチを示しました。
藤屋式ニッチトップ戦略では、これを、他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズに、自社だけが応える状態と捉えています。
特注は、その方向につながる可能性があります。
ただし、他社が対応したがらない仕事を何でも引き受ければよいわけではありません。
顧客には価値があっても、自社の負荷だけが増え続ければ、事業として続きません。
そこで、特注への見方を変える必要があります。
700種類を超える機械を、標準部品でつくる
ドラッカーは『マネジメント』で、「柔軟な大量生産」という考え方を取り上げています。
その事例として紹介しているのが、1930〜40年代の南カリフォルニアの農業機械メーカーです。
このメーカーは、大規模な灌漑農業で使う特殊な耕作機械を設計・製造していました。
その設計は一台ごとに異なり、同じ機械を何台もつくることはほとんどありませんでした。
ドラッカーによれば、手掛けた異なる機械は700種類を超えていました。
それほど多様な機械をつくりながら、使っていたのは、他で大量生産されている均一な標準部品でした。
たとえば、キュウリの大規模栽培で、春の畑の準備から収穫、さらに漬物加工までの作業に対応する機械もつくっていました。
必要な機能を一から専用部品としてつくるのではありません。
別の用途のために量産されている部品の中から、その機械に使えるものを探して組み合わせていました。
ドラッカーがここで示したのは、単なる部品の共通化ではありません。
多様に見える製品の中に共通するパターンを見つけ、できるだけ少ない標準部品で、できるだけ多くの製品を組み立てられるようにするという考え方です。
この事例では、それによって700種類を超える異なる機械が成立していました。
(出典:P.F.ドラッカー『マネジメント』)
顧客にとっての特注と、自社にとっての標準
この考え方は、現在のモノづくり企業の特注対応にも使えます。
顧客が求めているのは、必ずしも「すべてを一からつくってもらうこと」ではありません。
- 自社の設備に合うこと
- 必要な機能を果たすこと
- 使用条件に対応できること
その結果が顧客ごとに違っていても、自社の中まですべて違う必要はありません。
- 共通して使える部品がある
- 共通して使える工程がある
- 設計ルールを共通化できる
- 治具を再利用できる
- 検査方法を標準化できる
- 見積基準をつくれる
その部分を増やせれば、最終製品は一品一様でも、仕事のすべてを毎回ゼロから始める必要はなくなります。
つまり、顧客にとっての特注と、自社にとっての標準は、両立が可能なのです。
特注対応を、提供方法だけで決めない
では、標準化できる部分を増やせば、それで特注事業は成立するのでしょうか。
それだけでは決まりません。
事業を構成しているのは、次の戦略設計の6変数です。
強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
たとえば、自社の強みが生きる特注と、そうでない特注があります。
同じ設備や設計知識を繰り返し使える商品群もあれば、毎回まったく異なる資源を必要とするものもあります。
どの顧客層の、どのような特注に応えるかによっても、蓄積できるものは変わります。
価格も同じです。
特注だから、かかった原価に一定の利益を加える。それだけで決めるのではありません。
目指す事業において、誰にどのような価値を生み出すのかを具体化し、その価値に見合う適性価格を設計する。
そのうえで、その価格で事業が成立するコストになっているかを確認します。
メッセージ発信も変わります。
「特注対応できます」だけなら、何でも受ける会社に見えるかもしれません。
自社は、誰の、どのような事情に、どの範囲まで応えるのか。
そこで生み出せる価値を伝える必要があります。
特注比率や案件数という数字も、判断材料の一つです。
ただ、その数字だけで続けるかどうかは決まりません。
6変数全体を見て、どの特注を自社の事業として育てるのかを判断します。
繰り返し現れているものを見る
今、受けている特注を、すぐに減らす必要はありません。
まず、繰り返し現れているものを見ることです。
- 同じような寸法変更はないか
- 同じ機能を求められていないか
- 共通する加工工程はないか
- 似た治具を毎回つくっていないか
- 同じ検査を案件ごとに組み直していないか
一件の経験から、次に使えるものを見つけます。
そのうえで、維持する。減らす。強化する。捨てる。創る。の五つで見直します。
- 現在のやり方のまま続けるものはどれか
- 負荷を減らすものはどれか
- 繰り返し使えるように仕組みを強化するものはどれか
- 今後は受けないものはどれか
- 新たに標準として創るものはどれか
減らす、捨てるという判断は、特注を減らすこと自体が目的ではありません。
そこで空いた経営資源を、強化するもの、創るものへ向けるためです。
その特注から、次に使えるものが残っているか
特注対応を、どこまで続けるべきか。
その答えを、特注の量だけから決めることはできません。
見るのは、その特注から得たものが、次の特注に使える形で残っているかです。
一件ごとの経験が、その案件だけで終われば、同じような負荷を繰り返します。
特注を減らすことが答えとは限りません。
顧客ごとの違いに応えながら、自社の中では標準化できる部分を増やせるか。
顧客にとっての特注と、自社にとっての標準を両立できれば、特注は「受けるほど疲弊する仕事」とは限らなくなります。
- 今、受けている特注の中に、繰り返し現れている要求はないでしょうか?
- その特注から得たものは、次に使える形で残っているでしょうか?
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