既存商品から、新用途をどう見つけるか
今ある商品から、広げられないか
新商品の開発には、時間も資金もかかります。
試作を重ねる。設備を入れる。評価を受ける。
しかし、市場に出るまで何年かかるか分かりません。
一方で、今持っている商品には、まだ別の使い道があるのではないか。
そう考えることがあります。
自社の商品が、別の業界で、別の目的に使われる。
それができれば、新しい基盤技術を一から開発しなくても、事業を広げられる可能性があります。
ただ、問題があります。
新しい用途を、どうやって見つけるか、です。
思いつきで別の業界を探しても、簡単には見つかりません。
既存商品の新しい用途は、どこを見ればよいのでしょうか。
商品名で見ていると、現在の用途から離れにくい
自社の商品には、名前があります。
- 自動車用ブラケット
- 食品機械用ローラー
- 半導体製造装置用部品
- 土木機械用潤滑油。
商品名の中に、すでに用途が入っていることもあります。
長年その用途に向けて販売していると、商品と用途が一体になります。
「この商品は、このために使うものだ」と考えるようになっています。
それ自体は当然です。
商品を設計するときには、用途を具体化しなければなりません。
ただ、新しい用途を探すときには、この結びつきが視野を狭めることがあります。
既存商品の新用途を探すというのは、商品を別の商品に変えることから始めるのではありません。
今の商品が、別の場所では何の役に立つのかを見ることです。
その手がかりを、ゼロから発想する必要はありません。
すでに自社の周りで起きていることがあります。
手がかりは、すでに起きている
用途開発のために、いきなり大規模な市場調査を始める必要はありません。
まず、すでに起きていることの中に、説明のつかないものがないかを見ます。
想定していなかった顧客が、既存商品を買っている
主力とは違う業界から、ときどき注文が来る。
金額が小さいため、売上全体では目立ちません。
ただ、その顧客は、なぜ自社の商品を選んだのでしょうか。
通常の顧客とは違う理由で買っているなら、そこに別の用途があるかもしれません。
既存商品が、想定と違う使われ方をしている可能性があります
したがって、納品後、顧客がどのように使っているかまで確認してみることです。
想定していた工程とは違う場所で使っている。
補助的な用途だと思っていたものを主用途にしている。
売った側が考えていた用途と、使う側の用途が違うことがあります。
既存商品について、想定外の用途の問い合わせが来ていませんか
たとえば、この商品を、こういう場所にも使えないか。
問い合わせは来たものの、「本来の用途ではありません」と答えて終わっている。
そうしたものがないでしょうか。 使えるかどうかとは別に、なぜその顧客が自社の商品を候補にしたのかを見る。
その理由に、新用途の手がかりがあるかもしれません。
顧客の先で、最終的に何のために使われているかを見る
自社の直接の顧客だけを見ていると、用途が途中で止まります。
部品メーカーに納めた部品が、その先の完成品で何を実現しているのか。
商社に販売した商品が、最終ユーザーのどの問題を解いているのか。
顧客のその先の顧客まで見ると、自社が認識していなかった用途が見えることがあります。
商品名ではなく、顧客側で果たしている機能で言い直す
「自動車用ブラケット」ではなく、「二つの部材を、必要な位置関係で固定するもの」。
「融雪用ヒーター」ではなく、「必要な場所を、一定の温度に保つもの」。
何という商品かではなく、使う側で何をしているものか。
機能で言い直すと、同じことを必要としている別の用途を探しやすくなります。
この五つに共通しているのは、まだ存在しないものを発想することではありません。 すでにある事実を、用途という別の見方で見ることです。
ドラッカーは、予期せぬ成功をどう考えたか
ドラッカーは、イノベーションの機会の一つとして予期せぬ成功を挙げました。
- 計画していなかった顧客に売れた
- 想定していなかった使われ方が評価された
- 狙っていなかった領域だけ、なぜか引き合いが増えている
ドラッカーは、予期せぬ成功を次のように指摘しています。
豊かなイノベーション機会でありながら、多くの会社が無視しやすいものである、と。
実際、予期せぬ成功は、計画の中では捉えにくいものです。
計画未達は問題として報告されます。
一方、想定外に売れたものは、「売れてよかった」で終わることがあります。
さらに、それまで前提としてきた顧客像や用途では説明できないことがあります。
「この商品は、この顧客が、この用途で買うものだ」。
そう考えていたのに、まったく違う顧客が買っている。
それは、これまでの事業の見方では説明できません。
だから重要なのは、売上総額だけを見ることではありません。
内訳の中で、説明のつかないものを見ることです。
- なぜ、この業界から注文が来たのか
- なぜ、この用途について問い合わせられたのか
- なぜ、当初想定していなかった顧客が買っているのか
説明できない売上や問い合わせは、用途開発の手がかりかもしれません。
「保護する塗料」が「描いて楽しむ塗料」になった
たとえば、東京都大田区の太洋塗料株式会社。
建築用、工業用、路面標示用などの機能性塗料を製造する企業です。
同社には「水系ストリッパブル」という商品がありました。
塗装すると膜になり、必要がなくなれば簡単にはがせる水性塗料です。
もともとの用途は、金属製品などを保管・輸送するときに、表面を傷や汚れから守ることでした。
自動車部品などの工業用途で使われています。
つまり、顧客が買っていた機能は「一時的に表面を保護し、後ではがせること」です。
同社は、この商品の新たな用途開拓を期待しました。
そして、東京都が主催する「東京ビジネスデザインアワード」に応募します。
テーマは「塗って、はがせて、色も自由自在 水系はくり塗料」。
2013年、第1回のアワードでテーマ賞を受賞しています。
そこでデザイナーから提案されたのは、保護ではありませんでした。
一般の人が塗ってはがせる絵の具という使い方です。
業務用の大きな缶ではなく、押し出して使える容器にする。
そうすれば、一般の人がマーカーペンのように使えるという発想でした。
受賞後、デザイナーと同社の技術陣が共同開発を進めます。
容器や塗料の課題を一つずつ解決していきました。
こうして生まれたのが「マスキングカラー」です。
窓や鏡などに描き、乾いた後にはがし、別の場所へ貼り直すこともできる塗料です。
従来の用途では、「はがせる」は保護作業を終えるための機能でした。
新しい用途では、「はがせる」ことそのものが、描き直したり貼り直したりできる楽しさになりました。
同じ機能でも、使う顧客と目的が変わることで、価値が変わったわけです。
同社はこの商品によって、業務用塗料が中心だった事業から、一般消費者向けの市場へも販路を広げました。
藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、この事例で重要なのは、新しい塗料技術を一から開発したことではありません。
既存商品が持っていた「塗れる」「乾く」「はがせる」という機能。
それを、従来とは違う用途から見直したことです。
「表面を守るもの」と考えていれば、工業用途の中で用途を探します。
「塗ったものを後から自由にはがせるもの」と見れば、別の顧客、別の使い方が見えてきます。
用途開発とは、商品を別物にすることから始まるとは限りません。
今の商品が持っている機能を、別の顧客の側から見直す。
そこから始まる場合があります。
(出典:東京都「東京ビジネスデザインアワード」、公益財団法人大田区産業振興協会「大田区中小企業 新製品・新技術コンクール」受賞企業紹介)
用途が見つかっても、それだけでは事業にならない
新しい用途を発見した。それだけで事業になるわけではありません。
太洋塗料の事例でも、用途が変わったことで、 粘度、色、容器、販売先などを変えています。
新しい用途を事業にするには、戦略設計の6変数の組み合わせも改めて見ることです。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
- 商品:既存商品のままで使えるのか。用途に合わせて仕様を一部変える必要があるのか。商品名や容量まで変えたほうがよいのか
- 提供方法:現在と同じ受注方法でよいのか。販売単位、納期、在庫、保証、認証などを変える必要があるのか
- 顧客層&市場:新用途で大きな価値が生まれるのは誰なのか。「別の業界」だけでは足りません。その中の、どのような事情を持つ顧客に向けるのかを具体化します
- 価格:現在の用途での業界相場を、そのまま新用途へ持ち込む必要はありません。新しい用途で、特定顧客にどのような価値が生まれるのか。それによって、価格の考え方も変わります
- メッセージ発信:既存用途の説明をしても、新しい顧客には判断材料にならないことがあります。何の商品かではなく、その用途で何ができるようになるのかを伝えます
- そして強みも見直します:現在の商品を成立させている技術や経験のうち、新しい用途で重要になるものは何かを見ます。
用途を見つけることは、出発点です。
そこから6変数を行き来し、新しい用途を事業として成立させます。
説明のつかないものを、見にいく
既存商品の新しい用途を見つけようとすると、つい「どの業界へ売れるだろう」と考えます。
しかし、業界名から探す方法だけではありません。
すでに自社の周りで起きていることの中に、まだ説明できていない事実があるかもしれません。
- 今、自社の売上や問い合わせの中に、「なぜこの顧客が買っているのか」と説明できないものはないでしょうか?
- その事実を、例外として処理していないでしょうか?
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