売上の大きい顧客に、経営資源を優先すべきか
売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。
売上が大きい顧客に、多くの人がつく
売上の大きい顧客には、自然と人がつきます。
窓口を決め、担当を置き、要望があれば優先して動く。
設備の割り当ても、その顧客の仕事が基準になる。
理由があります。
売上が大きいということは、現在の事業を大きく支えているということです。
失ったときの影響も考えなければなりません。
したがって、そこに経営資源を厚く置くことには、合理性があります。
ただ、経営資源には限りがあります。
誰かを優先するということは、他を後回しにするということです。
そして、後回しになっているものの中に、これからの事業を支える顧客や用途が含まれているかもしれません。
本当に、売上の大きい顧客に、経営資源を優先すべきなのでしょうか?
売上の大きさから、追加する資源の量までは決まらない
売上の大きさは、重要な情報です。
これまでの取引の蓄積が、現在どれだけの成果になっているかを示しています。
しかし、その顧客にこれからどれだけ人、設備、時間、資金を追加すべきか。
そこまでは、売上高の大小からは分かりません。
同じ売上高でも、取引の中身が違うからです。
- 特定顧客に大きな価値を生み出していることで、取引が大きくなっている場合があります
- 量をまとめて受けていることで、発注が集まっている場合もあります
- 長年の取引が続いていることで、取引量が維持されている場合もあります
別の視点では、
- 利益の残り方も違います
- 将来の可能性も違います
もちろん、売上の大きさを見ることは必要です。
しかし、売上の大きさだけから経営資源の配分を決めることはできません。
資源配分は、決めていないと自動的に決まる
もう一つ、確認しておきたいことがあります。
経営資源の配分を意識的に決めていない会社でも、実際には人と時間はどこかへ配分されています。
- 急ぎの依頼が入る
- クレームが出る
- 大口顧客から要望が来る
- 納期が迫る
目の前で動いているものに、人と時間が向かいます。
これは自然なことです。
起きた問題を放置するわけにはいきません。
ただ、この流れだけで配分が決まると、優先されやすいのは、声の大きいものと、緊急性の高いものです。
一方、明日の事業をつくる仕事には、緊急性がありません。
- まだ売上が小さい顧客
- 新しい用途の検討
- 試作段階の案件
- これから開拓する対象市場
今日やらなくても、明日の売上は変わらないように見えます。
だから、後回しになりやすい。
しかし、半年後、一年後も後回しにしていれば、明日の事業は育ちません。
配分を決めていないことは、何も決めていないということではありません。
別の基準で決めている、ということです。
今後の事業展開から考えて、その基準でいいのでしょうか?
ドラッカーは、どこに資源を集中せよと考えたか
ドラッカーは、成果を上げるには集中が必要だと繰り返し述べています。
限られた経営資源を、成果につながるところへ向ける。
そのうえで、問題と機会を分けて考えました。
問題への手当ては必要です。
- 不良が出れば直す
- 納期が遅れれば手を打つ
- 顧客との問題が起きれば解決する
ただ、その直接的な役割は、多くの場合、悪化した状態を正常な状態へ戻すことです。
それだけでは、明日の成果はつくれません。
新しい成果をつくるには、機会にも意識して経営資源を向ける必要があります。
ドラッカーは、成果は企業の外にあると考えました。
- 人を何人使ったか
- 設備を何時間動かしたか
それだけでは成果ではありません。
- その資源によって、どこにどのような顧客価値が生まれたのか
- そして、事業の成果につながったのか
資源配分は、投入量ではなく、その先にある成果と機会から考えるべきものなのです。
取引を、昨日、今日、明日で見る
商品に時間軸があるように、顧客との取引にも時間軸があります。
ただし、顧客を三つに固定分類するという意味ではありません。
一社の顧客が、二つの役割を同時に持つこともあります。
現在の売上を支える「今日」の役割と、新しい用途を一緒につくる「明日」の役割です。
見るのは顧客名ではありません。
その取引が事業の時間軸のどこに位置しているかです。
- 昨日を支えてきた取引:これまで会社を支えてきた。現在も取引はある。しかし、今後さらに資源を追加しても、大きな成果の変化は期待しにくい
- 今日を支えている取引:現在の売上と利益を生み出し、会社を支えている
- 明日をつくる取引:まだ売上は小さい。試作段階かもしれない。しかし、目指す事業の中心になる可能性がある
売上の大きさだけで経営資源を配分する。
それでは、昨日と今日の取引に資源が集まりやすくなります。
明日の取引は、現在の売上が小さいため、後回しになりやすい。
だからといって、昨日の取引への資源を減らせばよいという意味ではありません。
現在の利益を生み出している取引があるから、明日の事業へ投資できます。
見るべきなのは、今日の事業を維持する資源と、明日の事業をつくる資源。
この二つを、意識して分けているかです。
今日の事業を続けながら、明日の顧客へ資源を向けた会社
たとえば、埼玉県東松山市の株式会社大村製作所。
精密金属加工を行う企業です。
同社は、自動車部品を主力として事業を築いてきました。
その加工を通じて、生産技術、製造管理、品質管理などの力を蓄積しています。
しかし、その経営資源を現在の自動車関連の取引だけに向け続けたわけではありません。
同社は、自社の加工技術を生かせる次の分野を探します。
そして、航空機・宇宙分野にも事業を広げました。
航空宇宙分野への参入に必要な品質規格を取得し、航空機や宇宙向けの部品加工を手掛けるようになりました。
既存事業で培った技術に加えて、新規設備投資も行っています。
さらに海外市場についても検討しています。
- 自社の加工品のどこに強みがあるのか
- どの市場に機会があるのか
ジェトロなどの支援も使いながら、販売先の開拓を進めています。
重要なのは、自動車部品という現在の事業をやめて、航空宇宙へ移ったことではありません。
現在も同社は、自動車部品とともに、航空機用部品やロケット部品などを事業として扱っています。
藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、こう捉えられます。
今日の取引で培った強みを、明日の事業になり得る顧客層&市場へ向けた。
そのために認証を取得し、設備にも投資し、新しい分野の顧客に応える体制を整えています。
売上の大きさだけを基準に資源を配分する。
それでは、まだ売上になっていない分野への認証取得や設備投資は、後回しになりかねません。
大村製作所の事例は、現在の事業を続けながら、次の機会にも意識して経営資源を向けた事例です。
(出典:中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者300社」、日本貿易振興機構〈JETRO〉大村製作所事例)
モノづくり企業の場合
経営資源の配分を、売上という一つの指標だけで決めないことです。
見る材料はいくつもあります。
その取引から、どれだけ利益が残っているか。
売上が大きくても、限界利益が小さい取引があります。
反対に、売上はまだ小さくても、価値に見合う適性価格が成立し、利益を生み出す可能性がある取引もあります。
その取引によって、自社に何が蓄積するか。
- 技術が磨かれる
- 新しい用途が分かる
- 別の顧客にも生かせる経験が残る
- 次の商品につながる知見が得られる
現在の利益だけでは見えない成果があります。
その取引は、目指す事業のどこに位置しているのでしょうか。
- 現在の事業を支える取引なのか
- 過去から継続している取引なのか
- これからの事業をつくる機会なのか
一社の中に複数の役割があることもあります。
資源を追加することで、成果がどれだけ動くか。
すでに安定している取引へ人を一人追加しても、成果がほとんど変わらないことがあります。
一方、試作や新用途の開発に人を向けることで、成果が大きく動く場合もあります。
売上順位ではなく、追加する経営資源が何を生み出すかを見ます。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
誰に資源を向けるかは、顧客層&市場だけの問題ではありません。
- どの強みを伸ばすのか
- どの商品&商品構成を育てるのか
- どの提供方法を仕組みにするのか
- どの顧客との間で適性価格を成立させるのか
- 何をどのように伝えるのか
6変数を行き来しながら、経営資源の向け先を決めます。
そして、現在の取引に追加の人や時間を投入するのであれば、その投入が適性価格や取引条件を含めた成果につながっているかを見ます。
一方、明日の事業をつくるための経営資源。
これは、今すぐ価格に反映されるかどうかでは判断しません。
コストではなく、将来への投資として判断する領域です。
売上の大きい顧客を優先するとは、別の何かを後回しにすること
売上の大きい顧客に、経営資源を優先すべきか。
売上の大きさは、重要な判断材料です。
売上の大きい顧客現在の事業を支えているのですから、軽く見ることはできません。
ただ、売上が大きいという理由だけで、追加の人、設備、時間、資金まで優先すると決めることはできません。売上の大きい顧客経営資源を優先するということは、別の何かを後回しにするということです。
だから、見るべきなのは「どこに多く使っているか」だけではありません。売上の大きい顧客「何を後回しにしているか」です。
- 今の顧客を守るための仕事
- 明日の顧客をつくるための仕事
どちらも必要です。売上の大きい顧客問題は、その配分を誰が決めているかです。
- 今、人と時間は、どの顧客や仕事に多く使われているでしょうか?
- その配分は、自社で決めたものでしょうか?
- それとも、緊急性や顧客の声の大きさによって決まったものでしょうか?
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