顧客の要望には、どこまで応えるべきか

売上を伸ばしながら、利益率を上げるニッチトップ戦略の藤屋伸二です。

取引先からの要望は断りにくい。しかし、際限がない

様々な顧客から、様々な要望が来ます。

  • 小ロットで出してほしい
  • 図面を修正してほしい
  • 納期を前倒ししてほしい
  • 仕様を少し変えてほしい
  • 在庫を持っておいてほしい

一つひとつは、無理な話ではありません。
手間はかかりますが、断るほどのことでもない。

だから、応えてきました。
ただ、要望は一度で終わるとは限りません。

一度応えたことが、次からは前提として受け取られることがあります。
そうして、新しい要望が加わっていくこともあります。

そうした要望を断れば、取引が減る不安がある。
応え続ければ、負荷が積み上がる不安もある。

顧客の要望には、どこまで応えるべきなのでしょうか。

すべてに応えると、何が起きるか

すべての要望に応えることは、顧客本位に見えます。
実際、そうやって信頼を得てきた面もあります。

ただ、結果として起きることがあります。
一つひとつの要望に個別に応えていけば、それに伴う仕事も増えていきます。

  • 小ロットの段取り
  • 特殊な検査
  • 個別の在庫管理
  • 例外的な納品
  • 急な仕様変更
  • 製造現場の段取り替え

それぞれに、人、設備、時間が使われます。
応えた分が、価格や取引条件に表れないこともあります。

手間は増えているのに、価格は以前のまま。
顧客から見れば、追加の要望を出しても条件が変わらない。
それが続けば、最初は特別だった応え方が、次からは前提になります。

幅広い要望に応えてきた中で、技術や知見が蓄積していることもあります。
しかし、その力を何に使うのかは、別の判断です。

要望と、顧客にとっての価値は同じではない

もう一つ、確認しておきたいことがあります。
顧客の要望は、解決したい問題に対して、顧客が考えた答えであることがあります。
顧客の側には、何か解決したいことがあります。

生産計画が組みにくい。在庫が増える。設計が固まらない。歩留まりが安定しない。
その問題に対して、要望が出てきます。

  • 小ロットにしてほしい
  • 仕様を変えてほしい
  • 早く納めてほしい

しかし、その答えが最善とは限りません。
顧客が「小ロットで」と言うとき、本当に解決したいのは在庫を減らすことかもしれません。

だとすれば、小ロット化だけではありません。

  • 納期を短くする
  • 発注方法を変える
  • 在庫の持ち方を変える

こうした別の応え方も考えられます。
仕様変更を求められた場合も同じです。

  • その仕様でなければ目的を達成できないのか?
  • それとも、過去から続いている仕様をそのまま使っているだけなのか?

要望の形だけを見ても分かりません。

要望どおりに応えることが、顧客にとって最も価値のある応え方とは限りません。

反対に、顧客から要望されていないことが、大きな価値になる場合もあります。
顧客自身が、まだ問題だと認識していないことに、自社が気づくことがあるからです。

ドラッカーは、顧客と成果をどう考えたか

ドラッカーは、事業を製品からではなく、顧客から見ることを求めました。
そして、顧客にとっての価値は何かを繰り返し問いました。

要望を聞くことは必要です。
しかし、その要望によって顧客は何を解決しようとしているのか。
顧客の事業では何が起きているのか。
そこまで見る必要があります。

さらにドラッカーは、われわれの顧客は誰かと問いました。
すべての人を顧客にすることはできません。
そのために、誰を顧客とするのかを考えること。
それは、どのような要求に経営資源を向けるのかを考えることでもあります。

要望に応えるかどうかは、単なるサービスの良し悪しではありません。
限られた経営資源を、どこへ向けるかという戦略判断です。

顧客の不満を、そのまま受けずに商品へ変えた会社

たとえば、大阪市のアラオ株式会社。
建築・土木・工場向けのゴム・プラスチック製品を製造・販売する企業です。

同社は、顧客の声をヒントに、工事現場の安全性、生産性、利便性を高める商品を開発してきました。

特徴的なのは、顧客から言われたものを、そのままつくることではありません。
営業担当者が顧客の現場で悩みや不満を聞き、そこから新商品の案を考えます。

商品化する際には、開発に必要なコスト、見込まれる利益、既存商品にはない付加価値などを経営陣に説明します。
そして、販売会議で商品化するかどうかを判断します。

つまり、顧客から声があったから商品にするのではありません。
顧客の困り事を捉え、それをどのような商品にすれば事業として成立するのかまで考えています。

代表的な商品が、ゴム・プラスチック製の点字ブロックです。
営業担当者が顧客から聞いたのは、不満でした。
工事期間中に一時的に使う点字ブロックについて、従来のコンクリート製では「重い」「価格が高い」というものです。

そこで同社は、「仮設用途なのに、重く、高価である」という問題に着目します。
そして、軽量で安価な点字ブロックを商品化しました。

2004年に発売されたこのシリーズは、その後、同社の看板商品に成長しました。
同社はその後も、土木・建築工事現場向けに毎年5〜10件の新商品を発売します。
さらに、工場や倉庫向けへ対象市場を広げています。
白書では、2022年まで20期連続の増収を実現したと紹介されています。

藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、重要なのは、顧客の要望に数多く応えたことではありません。
顧客の不満の背後にある問題を捉え、それを商品として仕組みに変えたことです。
一件ごとの例外的な応え方で終わらせず、次の顧客にも提供できる事業へ変えています。

(出典:中小企業庁『2023年版中小企業白書』)

モノづくり企業の場合

まず確認したいのは、その要望の背後に何があるかです。
その要望によって、顧客は何を解決しようとしているのか。

「短くしてほしい」「少なくしてほしい」「変えてほしい」。
こうした要望そのものではありません。
それによって顧客の何を変えようとしているのかを見ます。

次に、その要望を目指す事業に照らします。
その要望は、目指す事業で対象とする顧客からのものか。

誰から来た要望かは重要な判断材料です。
ただし、対象とする顧客からの要望だから応える、と決まるわけではありません。

その要望に応えることで、目指す事業の戦略設計の6変数の整合が高まるかを見ます。
同じ要望が、繰り返し来ていないか。
繰り返し来る要望には、共通する問題がある可能性があります。

一件だけの要望と同じように見るかどうかも、判断材料になります。
応えた内容を、価格と取引条件にどう反映するか。

追加の手間や特別な条件を、自社だけで負担し続ける必要はありません。
その要望への応え方によって、特定顧客にどのような価値を生み出すのか。
それによって、価格と取引条件の考え方も変わります。

事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

顧客の要望は、このうち一つだけを動かすとは限りません。
小ロットへの要望を商品構成で解くこともあれば、提供方法で解くこともあります。

仕様変更への要望を、そのまま商品へ反映するのではなく、別の商品を提案することもあります。
繰り返される要望を新しい商品にすれば、顧客層&市場まで変わることがあります。

だから、要望そのものを基準に戦略を決めません。
要望も一つの情報として見たうえで、
6変数の整合と目指す事業に戻して判断します。

「応える」と「断る」の間にあるもの

要望に対する答えは、二つではありません。

  • そのまま応える:要望そのものが顧客にとって適切で、目指す事業とも整合している。それなら、そのまま応える判断があります
  • 条件を変えて応える:追加の手間や特別な条件が必要なら、価格や納期、数量などの条件も含めて考えます
  • 別の形で応える:顧客が求めている解決策ではなく、その背後にある問題に対して、別の方法を提案します。顧客の目的が達成されるのであれば、要望どおりである必要はありません
  • 仕組みとして応える:同じ要望が繰り返し来るなら、一件ごとに応え続けるとは限りません。商品や提供方法の側で受けるという選択もあります

そして、応えないという判断もあります。
ただし、それは断り方の問題ではありません。

  • 何に応える事業なのか?
  • その要望に応えることが、目指す事業に近づくのか?

そこから判断します。

何に応える事業なのか

顧客の要望に、どこまで応えるべきか。
一律の線はありません。

  • 大口顧客だから応える
  • 長い付き合いだから応える
  • 繰り返し来る要望だから応える
  • 利益が出るから応える

どれも判断材料にはなります。
しかし、一つだけを基準に決めることはできません。

問うのは、その要望に、どのように応えることが目指す事業に近づくのかです。

  • 要望どおりに応えるのか
  • 条件を変えるのか
  • 別の解決方法を示すのか
  • 商品や提供方法として仕組みにするのか
  • あるいは、応えないのか

何に応える事業なのかが具体化されていれば、要望が来るたびに、その判断をゼロから始める必要はありません。

  • 今、応えている顧客の要望の中に、何度も繰り返されているものはないでしょうか?
  • その要望の背後で、顧客が本当に解決しようとしていることは何でしょうか?

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