ニッチ市場を選ぶことは、成長を諦めることか

売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。

絞るのは、小さくまとまることに思える

対象を絞ったほうがいい、と言われることがあります。

  • 特定の用途に絞る
  • 特定の顧客に集中する
  • 自社の強みが生きる領域に経営資源を向ける

理屈は分かります。
ただ、実際に決めるとなると、手が止まります。

今、応えている引き合いの一部を、受けないことになるかもしれません。
対象市場が小さくなれば、売上の上限も下がるように見えます。

大きな市場にいれば、伸びる余地がある。
小さな市場を選べば、その余地を自分から狭めることになる。

ニッチ市場を選ぶことは、成長を諦めることなのでしょうか。

市場を小さく区切れば、ニッチになるわけではない

まず確認しておきたいことがあります。
市場の大きさは、どう区切るかによって変わります。

たとえば、自動車部品という市場は大きい。
金属加工という市場も大きい。
そこから、特定用途、特定材質、特定形状へと範囲を狭めていく。
そうすれば、市場は小さくなります。

しかし、市場を細かく区切れば、それだけでニッチになるわけではありません。

「自動車部品」から「特定用途の特定部品」へ対象を狭めたとします。
それでも、その中で複数社が同じ仕様、同じ価格、同じ納期で比較されている。
それなら、比較の状態は変わりません。

反対に、大きな市場の中にいる会社もあります。
それでも、他社が対応しにくい特定顧客のニーズに応えている会社があります。
つまり、市場規模と市場地位は別の問題です。

市場規模も判断材料の一つですが、それだけで市場地位は決まりません。

問うべきなのは、どれくらい小さく市場を区切るかではありません。
その対象市場で、自社がどのような価値を生み出すのか。
そして、どのような市場地位を持つのかです。

大きい市場でも、小さい市場でも比較は起きる

大きな市場にいれば成長でき、小さな市場にいれば成長できない。
そう単純には決まりません。

大きな市場でも、同じ商品、同じ提供方法、同じ価格の決め方で多くの企業と並べられる。
それなら、相見積もりや市場相場の影響を受けます。

市場規模が小さくても、顧客が複数社を同じ物差しで比べられる。
それなら、価格と取引条件の主導権を持てるとは限りません。

一方、他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定顧客のニーズ。
そこに自社が応えているなら、話は変わります。

重要なのは、市場の大小ではありません。
その対象市場で、誰のどのようなニーズに応えているかです。
その選択によって、売上を伸ばしながら、利益率を上げることが可能になります。

ドラッカーは、ニッチをどう考えたか

ドラッカーは、企業家戦略の一つとしてエコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)を示しました。

藤屋式ニッチトップ戦略では、これを次のように捉えています。

他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズに、自社だけが応える状態。

ここで重要なのは、この状態が市場規模によって決まるわけではないことです。
小さい市場にいるからニッチなのではありません。
反対に、大きな市場の中にいるからニッチになれないわけでもありません。

  • どの顧客に、どのような価値を生み出すのか
  • そして、他社と比べる意味が薄れる市場地位をつくれるか

そこが分かれ目です。

ドラッカーは、成果を上げるためには集中が必要だとも考えました。
ただし、集中を、単純に対象を狭くすることと考える必要はありません。
集中とは、限られた経営資源を分散させず、成果につながるところへ向けることです。

対象市場の数や大きさだけでは、集中しているかどうかは判断できません。

対象を絞ることに、どのような意味があるか

では、対象を絞ることには、どのような意味があるのでしょうか。
一つは、経営資源を特定の顧客価値に集中しやすくなることです。
同じ種類の要求に繰り返し応えることで、経験が蓄積します。

  • 必要な技術が磨かれる
  • 設備や段取りが整う
  • 顧客がどこで困るのかも分かってくる

その結果として、他社が対応しにくいニーズに、自社が継続して応える状態へ近づきます。

ただし、対象を絞れば、自動的に独自化できるわけではありません。
狭い市場を選び、そこで他社と同じことをしていれば、比較は続きます。

絞ることの意味は、経営資源を集中させ、戦略設計の6変数の整合を高めやすくすることにあります。

その結果として、他社が対応しにくい特定顧客のニーズに、自社が継続して応える市場地位をつくれるか。
そこまで進めば、価格と取引条件の主導権を持てる可能性が高まります。

「細い領域」に集中した会社

たとえば、神奈川県横浜市のアルファーテック。
小径精密部品のセンタレス加工を手掛ける企業です。

同社は創業当初、ドットプリンターの印字用ピンを主力としていました。
一時は、ドットプリンター関連が売上高の9割以上を占めています。
しかし、インクジェットプリンターやレーザープリンターの普及によって、需要が激減しました。

そこで同社が注目したのが、自社が培ってきた「細いピンを加工する技術」でした。
センタレス加工を行う多くの企業は、直径2〜3ミリを超える「太い領域」を手掛けます。
その中で同社は、直径0.2〜0.3ミリという「細い領域」の加工経験を持っていました。

市場規模の大きい太い領域へ進むのではなく、この細さを生かせる領域に集中しました。
その後、直径0.03ミリという極細ピンまで加工技術を高めます。
特殊な形状や材質へも加工を広げました。

重要なのは、ここで小さくまとまらなかったことです。
「細い」という強みを生かします。

半導体検査装置用の部品、自動車用ディーゼルエンジン関連の電極、医療用カテーテル関連の部品へと用途を広げていきました。

2023年版中小企業白書では、次のように紹介されています。
半導体、自動車、医療の各分野が事業として軌道に乗った。
2003年以降20期連続で黒字を計上し、近年では売上高経常利益率10%以上を確保している。

その後も事業展開は続いています。
2023年度の売上構成は、自動車分野39%、半導体分野33%、医療分野17%となっています。

藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、この事例で重要なのは、「小さい市場を選んだから成功した」ことではありません。

自社の強みが大きな価値になる「細い領域」に経営資源を集中し、そこで市場地位をつくったことです。
その後、同社はその加工技術を生かし、半導体、自動車、医療へ用途を広げています。
対象を絞ることと、成長を諦めることは同じではありません。

(出典:中小企業庁『2023年版中小企業白書』)

モノづくり企業の場合

市場を、与えられた区分としてそのまま受け取る必要はありません。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。

強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

顧客層&市場は、この一つです。
ただし、市場を先に決めて、他の5変数をそこに合わせるわけではありません。
反対に、顧客層&市場を除いて事業を完成させ、最後に売り先を当てはめるのでもありません。

  • どの強みを生かすのか
  • どのような商品にするのか
  • どのような提供方法を使うのか
  • どのような価格の考え方をとるのか
  • 誰を顧客とするのか
  • 何をどのように伝えるのか

この6変数を行き来しながら、目指す事業を具体化していきます。
その中で、対象とする顧客層&市場の範囲も具体的になります。

結果として対象市場が狭くなることもあります。
しかし、大きさは選択の結果であって、最初に決める目的ではありません。

成長を、売上規模だけで見ない

小さな市場を選ぶことが成長を諦めることかどうか。
それは、売上規模だけを見ていると判断しにくくなります。

対象を絞れば、応えない引き合いが出ることがあります。
短期的には、売上機会が減ることもあります。

しかし、経営資源を集中することで、自社の強みがより大きな価値になる市場地位をつくれる可能性があります。
その結果として、価値に見合う適性価格で取引できる可能性も高まります。

  • 利益率が高まり、その利益を次の投資に回せる
  • 無理な取引を断り、対象とする顧客を選べる

売上規模だけで、成長を判断するわけではありません。

次の成長を、自社で選べる状態になっているか。

そこまで含めて、成長を考える必要があります。

問うのは、市場の大きさではない

ニッチ市場を選ぶことは、成長を諦めることではありません。
同時に、市場を小さく区切れば成長できるという意味でもありません。
エコロジカル・ニッチかどうかは、市場の大きさでは決まりません。

問うのは、どの顧客に、どのような価値を生み出すのか。
そして、他社と比べる意味が薄れる市場地位をつくるかです。

その市場地位に近づけば、相場だけで価格が決まる状態から離れます。
価値に見合う適性価格で取引できる余地が広がります。

ニッチ市場を選ぶことと、売上を伸ばしながら利益率を上げること。
この二つは、反対ではありません。

  • 今、御社が対象としている市場は、どのような基準で決まっているでしょうか
  • その市場で、他社と同じ物差しで比べられているでしょうか

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