製造工程を改善しても、なぜ思うように利益率が上がらないのか

売上を伸ばしながら、利益率を上げるニッチトップ戦略の藤屋伸二です。

改善は続けている。それでも、利益率が大きく改善しない

  • 段取り時間を短縮しました
  • 設備の稼働率も上げました
  • 不良率も下げ、自動化も進めています

その結果、一人当たりの生産量も増えています。
現場は改善を続けています。
それでも、営業利益率は思うように上がりません。

工程を改善するだけでは、なぜ利益率が上がらないのでしょうか。

工場の生産性と、事業の生産性は同じではない

  • 工場では、安全性を高める
  • 不良品率を下げる
  • 設備の稼働率を上げる
  • 段取り時間を短くする
  • 生産スピードを上げる

どれも重要な改善です。
そして、これらの数字が良くなれば、工場の生産性は上がります。
ただし、ここで改善しているのは主に「どうつくるか」です。

工場は、決められた商品をつくります。
より安全に、より正確に、より速く、より少ない投入で。

一方、経営者には、その前提となる別の判断があります。

  • 何をつくるのか
  • どの商品を、誰に、どの提供方法で、どの適性価格で提供するのか

工場の生産性が上がることと、事業の生産性が上がること。
この二つは同じではありません。

生産性は、投入と産出の関係で決まる

生産性を単純な式にすると、こうなります。

生産性 = 産出 ÷ 投入

工程改善は、この比率を改善する取り組みです。

  • 同じ産出を、より少ない投入で得ることもあります。
  • 同じ投入で、より多くの産出を得ることもあります。

では、分子に置く「産出」とは何でしょうか。

産出を生産数量としてみます。
100時間で100個つくっていたものが、改善によって100時間で120個になった。
数量で見れば、生産性は2割上がっています。

これは間違いではありません。
製造ラインの生産性は、確かに上がっています。

  • しかし、その120個が利益の薄い商品だったらどうでしょうか
  • 目指す事業から外れた商品だったら
  • 他社と同じ物差しで比べられ、価格の主導権を持てない商品だったら

しかし、事業として求める成果が増えたとは限りません。

ドラッカーは、効率と有効性を分けて考えた

ドラッカーは、効率と有効性を区別しました。

効率よく行うことと、行うべきことを選ぶことは、別の問題です。

工程改善は、決められたものをより効率よくつくることに大きく貢献します。
しかし、何をつくるべきかは、工程改善だけでは決まりません。
ドラッカーはまた、成果は企業の外にあると考えました。

  • 工場の内部で時間を短縮した
  • 稼働率が上がった
  • 不良が減った

これらは重要な改善です。
しかし、その改善によってつくられたものが、顧客にどのような価値を生み出したのか。
その結果として、自社にどのような成果を生んだのか。
そこまで見なければ、事業としての生産性は分かりません。

何を成果として見るか

生産性を何で測るかは、目的によって変わります。
工場では、生産数量、一人当たり生産量、設備稼働率、標準時間などを見ます。

一方、事業全体では、付加価値額や利益などを成果指標として見ることもできます。
重要なのは、測りやすい指標を先に置くことではありません。

目指す事業で、何を成果とするのかを明らかにすること、です。

誰に、どのような価値を生み出す事業なのか。
その価値が生まれていることを、何で確認するのか。

ここが決まらなければ、生産性の向上が何を意味するのかも定まりません。
工場の数字だけを見れば、生産性は上がっている。
しかし事業全体では、利益率が変わらない。
このずれが起きる理由の一つが、ここにあります。

工程改善で生まれた余力を、どこへ向けるか

たとえば、石川県金沢市のアイデン。
制御盤の設計から板金、塗装、組立までを社内で一貫生産する制御盤メーカーです。

同社の主力製品である制御盤は、一点一様の配線作業が多いものです。
従来は、作業者の経験や技能への依存度が高くありました。

そのため、人材育成に時間がかかります。
作業の進捗や工程管理も作業者に依存するという課題がありました。

そこで同社はCADメーカーと連携します。
工程ごとに必要な図面と作業を可視化する独自のデジタルツール「IWS」。
これを開発・導入しました。

IWSによって進捗や材料を正確に管理し、一部の作業を機械化する。
それによって、制御盤製造の生産性を向上させました。
ここまでなら、工場の「どうつくるか」を改善した事例です。
しかし、注目したいのは、その先です。

同社は、機械化によってベテランの製造担当者を不要にしたのではありません。
ベテランを、より付加価値の高い業務に専従させる形へ役割を変えました。

さらに、IWSによる作業の標準化が効きました。
当時、日本の制御盤メーカーがほとんど進出しておらず、現地技術者も少なかったベトナム。
そこへの事業展開が可能になり、海外進出の契機にもなりました。

藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、重要なのは、工程を効率化したことだけではありません。
工程改善によって生まれた人や時間を、どこへ向けるかまで変えたことです。

同じ制御盤を、より効率よくつくれるようにする。
そのうえで、そこで生まれた経営資源を、より付加価値の高い仕事や新しい事業展開へ向ける。
工場の「どうつくるか」の改善を、 経営の「どこに経営資源を向けるか」につなげた事例と捉えられます。

(出典:経済産業省『2020年版ものづくり白書』)

投入と産出の比率を改善する方法は三つある

何を成果として産出するのかを考えたうえで、投入と産出の比率を改善します。

方法は三つあります。

  1. 投入を変えず、産出を増やす:同じ人、設備、時間で、より多くの成果を生みます
  2. 産出を変えず、投入を減らす:同じ成果を、より少ない人、時間、材料などで生みます
  3. 投入を増やし、それ以上に産出を増やす:人を採る。設備を入れる。技術開発に資金を使う。新しい仕組みをつくる。投入は増えます。しかし、それを上回って産出が増えれば、生産性は上がります

なお、産出が増えて投入も減る場合があります。
これは、一つ目と二つ目が同時に起きている状態です。

一方、産出も投入も減らし、投入の減り方を大きくする。
これでも比率は上がります。

ただし、藤屋式ニッチトップ戦略では、この方向は採りません。
比率は改善しても、産出そのものが減っているからです。

目指すのは、売上を伸ばしながら、利益率を上げることです。
縮んだ結果として比率が良くなることは、そこに含まれません。

この三つに、優劣はありません。
生産性向上というと、二つ目に目が向きやすくなります。

省人化、省力化、材料削減、コスト削減。
効果を数字で確認しやすいからです。

一方、三つ目では、設備、人、開発などへの投入が先行する場合があります。
その場合、一時的には生産性の比率が下がることもあります。

それでも、その投入によって、投入を上回る産出が生まれる。
それなら、生産性は上がります。
どの方法を選ぶかは、目指す事業に照らして決めます。

モノづくり企業の場合

生産性を、工程だけの問題にしないことです。
ドラッカーは、生産性に影響する要素を幅広く捉えています。

  • 知識(強み):何を強みとして持っているか。その強みを、どこで成果につなげるか
  • 商品構成:何をつくるのか。どの商品に経営資源を向けるのか
  • プロセスミックス:どの工程を自社で行い、どこを外に出すのか。人と設備をどう組み合わせるのか
  • 組織構造と活動のバランス:人と時間が、成果を生み出す活動に向いているか。

工程改善は、生産性を高める重要な取り組みです。ただし、生産性を決める要因は工程だけではありません。

そして、これらは事業の設計とも重なります。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。

強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

6変数まで含めて考えると、生産性は工場だけの問題ではありません。
事業戦略の問題になります。

工場の改善と、事業の設計を分けて考える

工程を改善しても利益率が上がらないとき、改善の取り組みが足りないとは限りません。

  • 工場では、安全、不良品率、稼働率、段取り時間、生産スピードなどを改善する
  • 同時に経営では、その工場で何を成果として産出する事業なのかを問い続ける

この二つは、役割が違います。
そこまで含めて、生産性を事業戦略として考える必要があります。

  • 今、御社の工場で追っている生産性の指標は、何でしょうか
  • その指標が良くなることは、目指す事業の成果が増えることにつながっているでしょうか。

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