今、捨てられない商品や顧客を、どう判断するか

売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。

切ったほうがいい、とは分かっている

数字を見れば切ったほうがいいと分かっている商品があります。

  • 手間の割に利益が薄い
  • それでも、長年の取引先が使っている

顧客も同じです。

  • 単価は低い
  • 無理も多い
  • それでも、その仕事が工場の稼働を支えている

やめたほうがいい、と言われれば、そのとおりだと思う。
ただ、今すぐ切っても、翌月から固定費が浮くわけではありません。
人も設備も残ります。
空いたラインを埋める仕事も、すぐには見つからない。
だから、続けている。
この状態を、どう扱えばいいのか。

捨てるか残すかの二択にすると、判断できなくなる

戦略の話になると、しばしば「何を捨てるか」が問われます。

  • 選択と集中
  • 不採算の整理
  • やめる勇気

言っていることは正しい。
しかし、捨てるか残すかの二択で考える限り、現実の経営では「残す」しか選べません。
捨てた瞬間に売上が消え、それを埋めるものが手元にないからです。

ここで起きているのは、決断力の問題ではありません。
二択という枠組みが、現実に合っていないということです。

実際の経営は、現在と将来を同時に動かします。
今日の売上を確保しながら、明日の事業をつくる。
この二つは、順番に来るのではなく、並行して走ります。
だから、その間をどう設計するかという問いが必要になります。

ドラッカーの三つの問い

ドラッカーは、事業を考えるときに三つの問いを置きました。

  • われわれの事業は何か
  • このまま推移すると、われわれの事業は何になるか
  • われわれの事業は何であるべきか
  • 一つ目は現在です:今、何を、誰に、どう提供しているのか
  • 二つ目は、現在の延長線上にある将来です:何も変えずに、このまま進んだとき。市場は、顧客は、価格は、そして自社の事業はどうなっているのか
  • 三つ目は、選択する将来です:では、どうなっているべきか

この三つが並ぶと、捨てられない商品や顧客の位置が変わります。

今、切れないことは、一つ目の問いの答えです。
事実として、現在はそうなっている。

しかし二つ目の問いは、別のことを聞いています。
この商品、この顧客との取引がこのまま推移したとき。
自社の事業は、どうなっているのか。

そして三つ目が、では何を目指すのかを問う。

一つ目と三つ目の間にある距離を、どう埋めるか。
ここが設計の対象になります。

■放置と移行措置は、外から見ると同じ

ここで区別が要ります。
今、切れない商品を持ち続けている会社が二つあるとします。
今期の売上構成も、工場の稼働も、取引先の顔ぶれも同じです。
外から見て、違いはありません。
違うのは一点だけです。
何が整えば動かせるかを、決めているかどうか。

決めていなければ、それは放置です。
現在の状態を変える条件がないため、同じ状態が続きやすくなります。

決めていれば、それは移行措置です。

  • 代わりの売上がこれだけ立ったら
  • 設備の償却が終わったら
  • 別の顧客との取引が軌道に乗ったら

条件を先に決めておけば、その条件が満たされた時点で、次の判断に移れます。

同じ「今、切らない」でも、中身が正反対になります。

そして、この条件を決めることは、今すぐできます。
売上構成が変わるのを待つ必要はありません。

業績が悪化する前に、次を始めた会社

たとえば、東京都文京区の東鋼は、特殊精密切削工具を製造・販売する企業です。

同社は主に自動車業界向けに、顧客の要望に合わせたオーダーメイドの工具を生産してきました。
それによって、長年安定した業績を確保してきました。

転機は、1997年のハイブリッド車「プリウス」の発売です。
当時、自動車エンジン関係の売上高が約3分の1を占めていました。
寺島社長は、次のように考えます。
エンジンを必要としない電気自動車の時代が来れば、市場は縮小する。

それに伴い、既存製品の受注が減ることは避けられない。
ただし、自動車向けの仕事を、その時点でやめたわけではありません。

経営状態が健全なうちに、自動車業界以外へ進出することを決めます。
そして2000年頃から、新分野開拓に着手しました。

展示会への出展を続け、それが案件になったのは2006年です。
航空機業界と医療機器業界の企業から、ほぼ同時期に新規案件の相談が入りました。

既存事業で培ったノウハウを生かせると判断します。
そして、新たな設備投資も進めながら製品開発に取り組みます。
航空機分野では、機体に使われるCFRPの穴開け専用ドリル。
医療機器分野では、人工関節置換手術用ドリル。
それぞれの開発につながりました。

その結果、自動車分野に偏っていた売上高の構成が変わります。
2019年には、自動車分野30%、航空機分野30%、医療機器分野20%、その他20%となっています。

ここで見たいのは、自動車向けの事業から撤退したことではありません。
現在の事業が、まだ会社を支えている間に動いたことです。
その延長線上にある将来を見て、次の事業をつくり始めています。

寺島社長は、次のように振り返っています。

新分野への進出は、金銭的にも精神的にも余裕がなければ続けられない。
余裕のある状態だったからこそ、一歩を踏み出せた。

もちろん、この事例から言えないこともあります。
「自動車向けの売上が何%になったら減らす」。
そうした移行の条件を決めていたかどうかは、確認できません。
白書に、そのような記述はありません。

確認できるのは、既存事業の業績が悪化してから動いたのではないこと。
そして、その結果として売上構成が変わったことです。

藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、現在か将来かの二択ではありません。
現在の事業が会社を支えている間に、次の事業への移行を始めた事例と捉えられます。

(出典:中小企業庁『2023年版中小企業白書』)

モノづくり企業の場合

藤屋式ニッチトップ戦略には、五つの指針があります。

維持する。減らす。強化する。捨てる。創る。

「維持する」は、何もしないことではありません。
戦略に照らして、現状を維持すると決めることです。

その中には、現在のまま維持することが戦略に合っている場合があります。
また、将来、減らす、捨てることを前提に、条件が整うまで維持する場合もあります。

今回の「今、捨てられない商品や顧客」は、後者です。

たとえば、こういう経路があります。

今は維持する。
ただし、その間に代替となる売上をつくる。
代替が立ってきたら、現在の取引の比重を減らす。
さらに条件が整えば、捨てる判断へ進む。
これは一例です。

維持から強化へ動くこともあります。
減らしながら、新しい事業を創ることもあります。

どの指針を適用するかは、会社によって違います。
また、商品や顧客によっても違います。

決めておくのは、次の三つです。

  • 何を条件とするか
  • 代替売上の金額か、新規顧客の数か、設備の更新時期か。

御社の事情と目指す事業から決めます。

いつ見直すか。
見直す時期を決めておかなければ、現在の状態がそのまま続きやすくなります。
半年後か、決算期か。あらかじめ時期を決めておきます。

その条件を、どうつくるか。
ここが本体です。
条件が勝手に整うわけではありません。

代替となる売上をつくるには、誰に、何を、どのように提供するのかを見直す必要があります。
場合によっては、価格やメッセージ発信も変わります。

つまり、戦略設計の6変数の内容の組み替えです。

強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

捨てることが目的ではない

一点、確認しておきたいことがあります。
移行措置は、事業を小さくするための手順ではありません。
利益の薄い取引をやめれば、その分だけ利益が残る、という話ではないからです。

  • 売上が減れば、固定費の負担は重くなります
  • 整理だけを進めれば、会社は縮んでいきます
  • だから、そこで空く人、設備、時間をどう扱うかまで考えることになります

移す先があるから、現在の仕事を減らせます。
移す先がまだなければ、現在の仕事を減らす前に、その先をつくる必要がある場合もあります。

何を減らし、何を捨てるのか。
そこで空いたものを、何の強化や何を創ることに向けるのか。

そこまで含めて、移行を設計します。

現在と将来を、同時に経営する

今、切れないものがあるのは、経営が現実だからです。

現在だけを見ても、将来だけを見ても、十分な判断にはなりません。
両方を同時に持たなければなりません。
だから、何を、どの条件で、どの順序で動かすかを決める必要が出てきます。
それが戦略です。

  • 今、切れないものを、そのまま持ち続けるのか
  • それとも、条件を決めて移行の準備に入るのか

外から見た今期の姿は同じでも、将来の選択肢は変わります。
そして、条件をつくる作業は、6変数の組み替えそのものです。

今、切れない商品や顧客について、何が整えば動かすかを決めているでしょうか。
その条件を見直す時期を、決めているでしょうか。

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