相見積もりでは、何を基準に選ばれているのか
売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。
相見積もりに入った時点で、決まっていること
引き合いが来る。
仕様書が届く。
そこには、同じ書類(フォーマット)が他社にも渡っているという前提があります。
見積もりを出す。
数日後、価格の相談が来る。
「他社さんはもう少し安いんですが」。
このとき、自社の技術力は議論されていません。
仕様を満たすことは、すでに前提になっているからです。
そこから先は、価格や納期など、顧客が決めた条件で比べられます。
相見積もりを断ることはできます。
ただ、断れば取引がなくなる可能性が大です。
だから受ける。
受ければ、顧客の物差し(選択基準)の上に載る。
この繰り返しは、物差しをつくっている条件が変わるまで続きます。
では、顧客は何を基準に選んでいるのでしょうか。
■なぜ、相見積もりが成立するのか
相見積もりが成立するには、前提があります。
顧客が、複数の会社を同じ物差しの上に並べられることです。
仕様書があり、その仕様を満たせる会社が複数ある。
すると、価格や納期など、顧客があらかじめ比較できる条件が中心になります。
物差しは顧客が用意し、自社はその上に載せられる。
ここで起きているのは、自社の評価が低いということではありません。
顧客が使っている物差しに、自社の違いを織り込める余地がない。
そういうことです。
- 段取りの速さ
- 設計段階での提案
- 不具合が出たときの対応の速さ
これらは仕様書に書かれていません。
仕様書に表れない価値は、相見積もりの共通の物差しには載りにくい。
だから、価格と納期が中心になります。
つまり、相見積もりは競争の原因ではなく、結果です。
問題は、顧客が使う物差しで自社が比較できる状態にあることです。
顧客の見積もりは、何を物差しにしているのか
顧客が仕様と価格で比べるのは、それが顧客にとって合理的だからです。
複数社から同じ仕様の見積もりを取る。
そして、最も安いところに出す。
購買担当者にとって、これは正しい仕事です。
責任を問われることもありません。
他に判断材料がなければ、そうするしかない。
では、他の判断材料があるとき、顧客はどうするか。
たとえば、
- その部品の歩留まりが顧客の生産計画を左右するとき
- 仕様変更が頻繁で、そのつど設計から相談したいとき
- ある特殊な材質を扱えるのが数社しかないとき
このとき、顧客は価格だけでは判断しません。
判断できないからです。
安く買って歩留まりが落ちれば、購買コストの削減額を上回る損失が出る。
物差しの土台になるのは、顧客の事情です。
そして顧客の事情は、顧客によって違います。
ドラッカーは、比べられない位置をどう考えたか
ドラッカーは、企業家戦略の一つとして、エコロジカル・ニッチを示しました。
藤屋式ニッチトップ戦略では、これを次のように捉えています。
他社が対応したがらない、あるいは対応できない特定のニーズに、自社だけが応える状態。
重要なのは、この位置が「強いから得られる」のではないことです。
規模でも、技術水準でも、資金力でもありません。
そしてドラッカーは、事業を考えるときに繰り返し同じ問いを置きました。
- われわれの顧客は誰か
- 顧客にとっての価値は何か
この二つの問いは、物差しを問う問いです。
誰を顧客とするかで、使われる物差しが変わる。
御社の違いを価値として認める顧客は誰か。
その顧客は、何を基準に取引先を選定しているのか。
モノづくり企業の場合
では、何を変えればいいのでしょうか。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
物差しが変わるのは、この組み合わせの内容が変わったときです。
そして、どこから手をつけるかは、会社によって違います。
- 顧客層&市場を変えた例:今の顧客は、価格を中心に判断せざるを得ない事情を持っている。そこに留まる限り、物差しは変わらない。だから、別の事情を持つ顧客層に向ける
- 提供方法を変えた例:仕様書が来てから見積もるのではなく、設計段階から関与する
- 商品を変えた例:単品の加工ではなく、組み立てまで含めた形で出す。比較の単位が変われば、同じ物差しに載らなくなる
- メッセージ発信を変えた例:すでに他社が対応しにくいことに応えているのに、それが顧客に伝わっていない。その違いを、顧客が判断できる形で伝える
どれが正解ということはありません。
抱える問題や課題が、会社によって違うからです。
ただし、どこから変えていっても、最後には6つが整合している必要があります。
顧客層を変えたのに、提供方法が前のまま。
それでは、新しい顧客の事情に応える形になりません。
提供方法を変えたのに価格が据え置きなら、増えた手間が利益になりません。
一つひとつの変数に、他社にない独自性が要るわけではありません。
変更の組み合わせ方によって、顧客から見た事業全体の違いが生まれます。
量産の下請けから、1個からの試作へ
たとえば、京都府宇治市のHILLTOP。
アルミなどの切削加工を手掛ける企業です。
2018年版ものづくり白書によれば、同社はかつて、典型的な下請けの町工場でした。
そこから、IT化によって職人の技のデータ化、デジタル化を進めました。
日中は図面を見ながら、デザインとプログラミングを行う。
夜は機械がデータどおりに加工し、朝には加工品が仕上がる。
この仕組みによって、24時間無人稼働を実現しています。
多品種・単品・短納期の加工ができる体制です。
そして「新規5日、リピート3日の短納期」「小ロット(1個から)対応」。
これを掲げて、事業を展開しています。
白書は、同社がIT化によって脱下請けを遂げたと記しています。
あわせて、ビジネスモデルを大きく変革したとしています。
ここで見たいのは、加工が速くなったことだけではありません。
量産加工を請け負う下請け企業から、多品種・単品・短納期に応える元請け事業へ変わったことです。
量産加工を、同じ仕様、同じ数量で請け負う。
1個からの単品や試作に、短納期で応える。
この二つでは、顧客が取引先を判断するときの条件も同じとは限りません。
藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、複数の変数に変化が見えます。
- 商品は、量産中心の加工から、多品種・単品へ
- 提供方法では、職人の技をデータ・デジタル化し、24時間無人稼働を可能にしました
- 顧客層&市場も、単品や試作を必要とする顧客へ広がっています
- メッセージ発信では、「新規5日、リピート3日」「1個から」。同社の特徴を明確に示しています。
価格については、白書からは確認できません。
しかし、一つの戦略設計の変数を強めたのではなく、複数の変数が組み替わっています。
もちろん、この事例から、同社が相見積もりから外れたとまでは言えません。
価格と取引条件の主導権を持ったとも言えません。
白書から確認できるのは、下請けの町工場だった会社が、複数の要素を変え、別の事業へ移ったことです。
(出典:経済産業省『2018年版ものづくり白書』)
相見積もりをなくすことが目的ではない
相見積もりに載ること自体が問題なのではありません。
問題は、相見積もりに載ったときに起きています。
御社の違いが、顧客の物差しに十分表れていないことです。
御社の違いが判断材料になれば、相見積もりに載っても、価格だけで判断されにくくなります。
その判断材料をつくるのは、顧客の事情です。
そして、それに応える御社の戦略設計の6変数の組み合わせです。
顧客に選ばれる基準を変える。
それは、相見積もりを断ることではありません。
価格を下げることでもありません。
顧客にとって、他社と同じ物差しで比べる意味が薄れる位置に、事業を置き直すことです。
そのために、戦略設計の6変数の内容を、どこを、どの順序で組み替えるかを決める必要があります。
今の顧客は、価格と納期のほかに、御社を選ぶ判断材料を持っているでしょうか。
その判断材料に、他社も同じように対応できるでしょうか。
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