ドラッカーの顧客の創造|どんな顧客を、創るのか

事業目的は、顧客の創造である

ドラッカーが『現代の経営』を著したのは1954年です。
その後も『マネジメント』をはじめ、繰り返し同じことを述べています。

事業の目的は、顧客の創造である。

ここには、2つの含みがあります。

1つは、事業の目的が企業の外にあるということ。
社内の効率でも、技術の水準でもありません。
外に顧客がいて、はじめて事業が成り立ちます。

もう1つは、利益の位置づけです。
ドラッカーは、利益を目的ではなく、結果であり条件だと考えました。
事業を続けるために必要なもの、という位置づけです。

顧客を創造する2つの機能

そのうえでドラッカーは、こう書いています。

企業には、2つの、そして2つだけの基本的な機能がある。
マーケティングとイノベーションである。

マーケティングは、顧客が何を求めているかから出発することです。
ドラッカーは、マーケティングの理想を、販売を不要にすることだと述べました。
売り込まなくても、顧客のほうから求めてくる状態です。

イノベーションは、新しい価値を生み出す機能です。
これまでになかった価値を、顧客に提供し、利益に反映させる。

この2つだけが成果を生む。
他はすべてコストである。
ドラッカーは、そこまで言い切っています。

生産性について

生産性は、基本的な機能としては挙げられていません。

ただしドラッカーは、生産性を軽く見たわけではありません。
経営が成果をあげるうえで欠かせないものとして、繰り返し論じています。

同じ経営資源から、より多くの価値を生み出す。
その考え方は、モノづくりの現場に最も近いところにあります。

名著から考える|モノづくり企業の事業戦略 シリーズ、ここまでの5回

このシリーズでは、5つの理論を見てきました。

  • 市場の中でどこに位置するか?
  • 自社の強みをどう捉えるか?
  • 改善をどう成果につなげるか?
  • 新しい市場をどうつくるか?
  • 今の商品と、次の商品をどう考えるか?

どの名著も、それぞれの問いに答えを出しています。

そしてドラッカーは、事業の目的、顧客、機能、生産性、そして市場での位置について、それぞれ論じています。

では、どんな顧客を創造すべきか

ドラッカーは、顧客を創造せよと述べました。

そして、事業を考えるときの問いとして、われわれの顧客は誰かを挙げています。
顧客が誰かは、決まっているものではなく、問うべきものだということです。

ここから、自社に置き換えて考えてみましょう。

顧客を創る。
では、どんな顧客との取引が、売上増と利益率向上の両方につながるでしょうか?

同じ1件でも、条件は同じではありません。

  • 相見積もりを取ったうえで発注してくる顧客
  • 「おたくでなければ困る」と言ってくる顧客

どちらも顧客です。
しかし、価格と取引条件を決めているのは、どちらも御社でしょうか、顧客でしょうか?

そこで、このシリーズでは、もう1つ問いを加えます。
これはドラッカーが立てた問いそのものではありません。
藤屋式ニッチトップ戦略から立てる問いです。

どんな顧客を、創るのか?

顧客を増やすことと、価格と取引条件の主導権を持つことは、同じではありません。

御社は、他社と比べられていないか

3つだけ、確認してみてください。

  • 相見積もりを求められることはないか
  • 業界相場が価格の基準になっていないか
  • 社の名前が出てくる商談はないか。

この3つは、今、自社が他社と同じ物差しの上にいるかどうかを示しています。

技術力の違いは、選ばれる理由になります。
しかし、他社と比べられる状態が残っていれば、価格と取引条件まで自社で決められるとは限りません。
だから、順序があります。

売上の拡大を先に置く「増収増益」ではなく、価格と取引条件の主導権を先に取り戻す「増益増収」。
売上を増やして確実に増えるのはコストであり、利益が増えるとは限らないからです。

価格と取引条件の主導権は、どこから生まれるか

ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の第3部で、企業家戦略の1つとしてニッチ戦略を挙げています。

限定された分野で、事実上の独占を得る。
目立たないが、そこにいなければ困る。そういう位置です。

ドラッカーは、この位置を生態学的なニッチ(エコロジカル・ニッチ)と呼びました。
ニッチ戦略として、3つの型が挙げられています。

  • 関所戦略:全体の流れの中で、必ず通らなければならない一点を占める
  • 専門技術戦略:専門的な技術によって、その領域での位置を得る
  • 専門市場戦略:特定の市場についての深い知識によって、位置を得る。

「ニッチ市場」=「小さい市場」という誤解

ニッチという言葉から、規模の話として受け取られることがあります。

  • 市場を絞る関所戦略
  • 専門技術をベースにする専門技術戦略
  • 市場の知識をベースにする専門市場戦略

ドラッカー自身、関所戦略については、市場が小さいことを条件としています。
1社で満たせる大きさでなければ、他社が入ってくるからです。

ただし、専門技術戦略と専門市場戦略では、規模そのものは条件になっていません。
条件になっているのは、その技術を持っているか、その市場を知っているかです。

藤屋式ニッチトップ戦略が重視しているのは、規模ではなく、状況のほうです。

他社が対応できない、あるいは対応したがらないニーズに、自社だけが応える。
これは、ドラッカーの記述をそのまま引いたものではありません。
ドラッカーの他の著作も参考にしてアレンジした藤屋式ニッチトップ戦略です。

だから、ニッチ市場が小さい市場とは限りません。
問題は広さではなく、他社と同じ物差しで比べられているかどうかです。

藤屋式が目指すのは、他社と比べられにくく、価格と取引条件の主導権を持てる市場地位です。

ただし、ニッチ市場も安泰な場所ではない

ドラッカーは、ニッチ戦略を取れば安泰だとは書いていません。
むしろ、それぞれの型の限界を、はっきり示しています。

たとえば、関所は、その位置を取った時点で、すでに成熟しています。
また、その関所を通らずに済む別の道ができれば、打つ手がなくなります。

そしてドラッカーは、次のような趣旨のことも述べています。

自社の商品は、いずれ陳腐化する。だとすれば、他社に不意打ちで陳腐化させられるより、自ら陳腐化させるほうが、リスクは小さい。

市場での位置を確立するには、自分から変わり続けることになります。

考え方が分かっても、明日の判断は決まらない

エコロジカル・ニッチは、考え方としては明快です。
他社が対応できない、あるいは対応したがらないニーズに、自社だけが応える。
そうすることで、他社と比べられにくく、価格と取引条件の主導権を持てる市場地位を目指します。

ただし、考え方が分かっただけでは、自社で何をどう変えるかまでは決まりません。

  • 今、持っている技術のうち、どれを伸ばすのか?
  • 今、受けている仕事のうち、どれを続けるのか?

藤屋式では、事業を構成する戦略設計の6変数を、戦略再設計の5指針で見直します。

維持する、減らす、強化する、捨てる、創る。

再設計といっても、すべてを変えるわけではありません。
今の事業を成り立たせ、利益や取引を生んでいるものには、変えずに残すという判断も必要です。
だから、5つの指針の最初に「維持する」を置いています。

5つの指針は別々ではなく、1つのシステムとして取り組む

ここまで見てきた理論には、それぞれ実践的な示唆があります。
ただし、1つずつ自社で実践すれば、事業全体が整うとは限りません。

  • 市場の見直し
  • 強みの強化
  • 改善
  • 新しい市場づくり
  • 新商品の開発。

1つひとつは正しくても、別々に取り組めば、システムとして噛み合うとは限りません。
必要なのは、やることを増やすことではありません。
1つのシステムとして、すべてが噛み合っていることです。

そこで藤屋式では、事業を6つの変数で見ます。

強み×商品×提供方法×価格×顧客層&市場×メッセージ発信

問うのは、一つひとつが他社と違うかどうかではありません。
6つの変数を掛け合わせた結果として、他社と同じ物差しで比べられる状況から抜け出せているかどうかです。

どの変数から手をつけるかは、会社によって違います。
課題も、着眼点も違うからです。

大事なのは、入る場所ではありません。
最後に、戦略設計の6変数が整合していることです。

自社の事業を点検する

戦略設計の6変数を1つの事業として整合させるには、御社で当たり前になっていることも、問い直す必要があります。

  • この価格は、どうやって決まったのか?
  • この売り方を、なぜ続けているのか?
  • この顧客に、なぜ応えているのか?

長く続けてきたことほど、理由を問い直す機会は少なくなります。
自社だけで考えていると、問い直しにくいところでもあります。

藤屋式ニッチトップ戦略では、藤屋から質問とアドバイスを受けながら、自社の事業戦略を設計します。
進め方は、2つあります。

短期間で、コンサル的に設計する:藤屋式ニッチトップ戦略|設計プロジェクト

自社だけの場で、自社の事業に集中して設計します。
技術、顧客、価格、取引条件など、他社と同じ場では話しにくいところまで踏み込んで、事業を組み立て直します。

継続して、設計・検証・修正を続ける藤屋式ニッチトップ戦略塾

設計して、実行して、現実に照らして、また直す。
これを続ける場です。
藤屋に加えて、経営者仲間からも質問とアドバイスを受けながら取り組みます。

※ 藤屋式では、売上の拡大を先に置く「増収増益」ではなく、価格と取引条件の主導権を先に取り戻す「増益増収」と考えます。
売上を増やして確実に増えるのはコストであり、利益が増えるとは限らないからです。

名著シリーズ 各回へのリンク

第1回 ポーターの競争戦略|価格と取引条件を誰が決めているか

第2回 コア・コンピタンス|強みは、価格と取引条件に反映されているか

第3回 ザ・ゴール|改善の成果は、自社の利益になっているか

第4回 ブルー・オーシャン戦略|ブルーオーシャンは、どうすれば続くのか

第5回 イノベーションのジレンマ|いまの商品を、自ら陳腐化できるか

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藤屋式ニッチトップ戦略とは