ポーターの競争戦略|価格と取引条件を誰が決めているか
この理論は、何を教えてくれたか
マイケル・ポーターが『競争の戦略』を発表したのは、1980年です。
ポーターは、企業の収益性を、業界の構造から説明しました。
同じように努力していても、業界が違えば利益率が違う。
その差は、業界の構造から読み取れる、と。
その構造を読むための道具が、5フォース(競争圧力)です。
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
- 既存企業間の敵対関係。
この5つが強い業界は、どの企業も儲かりにくい。
弱い業界は、平均的な企業でも利益が残る。
つまり、儲かる市場で儲かる仕組みをつくれば儲かる、と言うことです。
そして、その構造の中でどう立つかとして、3つの基本戦略が示されました。
- コストリーダーシップ
- 差別化
- 集中
ポーターは後に、集中を、コスト集中と差別化集中の二つに分けています。
ポーターは競争の視点を企業の中身へ
1985年の『競争優位の戦略』で、ポーターは視点を企業の内側に移します。
ここで示されたのがバリューチェーンです。
- 主活動として、購買物流、製造、出荷物流、販売とマーケティング、サービス
- 支援活動として、全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動
企業を、戦略上意味のある活動に分解する。
どの活動が価値を生み、どの活動がコストを生んでいるかを見る。
そのうえで、他社とは違う活動の組み方をする。
「良い会社」ではなく「どの活動が、なぜ違うのか」で説明する。
この見方も、ポーターが定着させたものです。
「戦略とは何か」
さらに1996年、ポーターは論文「戦略とは何か(What Is Strategy?)」を発表します。
邦訳は『競争戦略論Ⅰ』に収められています。
ここでポーターは、はっきりと書きました。
オペレーション効率の改善は、戦略ではない。
- 品質を上げる
- 納期を縮める
- 生産性を高める
これらは必要です。
しかし、同じ改善手法が広がれば、その差は縮まっていきます。
そして、業界の全社が同じ方向に改善を進めれば競争が激化し、努力して生み出した成果は顧客だけが受け取る。
では、どうすれば努力を売上増と利益率向上を両立できるのか。
ポーターはここで、
- 独自で価値のある戦略的位置を選ぶこと
- その位置に合わせて、何をやらないかを決めること
- そして、複数の活動を互いに噛み合わせること
を論じました。
やらないことを決めていない会社は、他社と同じ形に近づいていきます。
一方、噛み合った活動の連なりは、外からは見えにくく、1つだけマネしても同じ商品と提供方法にはなりません。
マネされにくさは、1つの強い活動からではなく、活動の組み合わせから生まれる。
これが、ポーターの持続の説明です。
ポーターが解こうとした問題は何か
ここまでを、1つの問いにまとめます。
なぜ、ある企業は他社より高い収益を上げ、それを続けられるのか?
ポーターは、この問いを長く追い続けました。
1980年には、業界構造と、その中で取る基本戦略を示しました。
1985年には、競争優位を生む企業の活動を、バリューチェーンで捉えました。
1996年には、オペレーション効率と戦略を区別し、独自の戦略的位置、トレードオフ、活動の一体性を論じました。
そして、この問いの立て方には、ひとつの前提があります。
他社より高い収益を上げる
他社との比較が、問いの中に入っています。
理論の名前も、Competitive Strategy、競争戦略です。
これは欠陥ではありません。
ポーターが答えようとした問いが、競争を前提にした問いだった、ということです。
では、モノづくり企業にどのように適用するか
ここから、御社に置き換えて考えてみましょう。
ポーターが問うたのは、業界の中でどこに立ち、その位置をどう保つかでした。
業界構造の影響は、モノづくり企業では、価格や取引条件にも現れます。
- 買い手の交渉力が強ければ、価格と取引条件の主導権は買い手が握ります
- 代替できるライバルが多ければ、価格と取引条件は競争させられます
そこで、このシリーズでは、もう一つ問いを加えます。
これはポーターが立てた問いではありません。
藤屋式ニッチトップ戦略で問いです。
価格と取引条件を、今、誰が決めているか?
ポーターの枠組みは、業界の中で独自の位置を選び、活動を組み直すことを求めます。
では、その作業を進めてきた場合、価格と取引条件を決める場面で何が起きているのか?
ここから先は、理論では分かりません。
実際のビジネスの状況を見るしかありません。
御社は、他社と比べられていないか
3つだけ、確認してみてください。
- 相見積もりを求められることはないか?
- 業界相場が価格の基準になっていないか?
- 他社の名前が出てくる商談はないか?
技術力の違いは、選ばれる理由になります。
しかし、他社と比べられる状態が残っていれば、価格と取引条件まで自社で決められるとは限りません。
問うべきなのは、技術力があるかどうかではありません。
その技術力が、価格と取引条件の主導権にまでつながっているかどうかです。
もう1つの視点
では、価格と取引条件の主導権を持つために、どんな視点があるのか?
ここで、もう1つの考え方があります。
同じ物差しの上で、より高い評価を得ようとするのではなく、そもそも同じ物差しで比べられにくい市場地位をつくるという考え方です。
ドラッカーは、こうした位置をエコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)として論じました。
藤屋式ニッチトップ戦略では、この考え方を、モノづくり企業の事業設計に落とし込みます。
戦略設計の6変数を、1つのシステムとして設計する
ただし、エコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)は、強みだけでも、市場選びだけでもつくれません。
強み×商品×提供方法×価格×顧客層&市場×メッセージ発信
この6つを、別々に考えるのではなく、1つのシステムとして整合させます。
問うのは、一つひとつが他社と違うかどうかではありません。
6つの変数を掛け合わせた結果として、他社と同じ物差しで比べられる状況から抜け出せているかどうかです。
自社の事業を再設計する
戦略設計の6変数を1つのシステムとして整合させるには、御社で当たり前になっていることも、問い直す必要があります。
- この価格は、どうやって決まったのか?
- この売り方を、なぜ、続けているのか?
- この顧客に、なぜ、このように対応しているのか?
長く続けてきたことほど、理由を問い直す機会は少なくなります。
自社だけで考えていると、問い直しにくいところでもあります。
藤屋式では、藤屋から質問とアドバイスを受けながら、自社の事業戦略を設計します。
進め方は、2つあります。
短期間で、コンサル的に設計する:藤屋式ニッチトップ戦略|設計プロジェクト
自社だけの場で、自社の事業に集中して設計します。
技術、顧客、価格、取引条件など、他社と同じ場では話しにくいところまで踏み込んで、事業を組み立て直します。
継続して、設計・検証・修正を続ける:藤屋式ニッチトップ戦略塾
藤屋式ニッチトップ戦略を設計して、実行して、現実に照らして、また直す。
これを続ける場です。
藤屋に加えて、経営者仲間からも質問とアドバイスを受けながら取り組みます。
※ 藤屋式では、売上の拡大を先に置く「増収増益」ではなく、価格と取引条件の主導権を先に取り戻す「増益増収」と考えます。
売上を増やして確実に増えるのはコストであり、利益が増えるとは限らないからです。
名著シリーズ 各回へのリンク
第2回 コア・コンピタンス|強みは、価格と取引条件に反映されているか
第4回 ブルー・オーシャン戦略|ブルーオーシャンは、どうすれば続くのか
第5回 イノベーションのジレンマ|いまの商品を、自ら陳腐化できるか


