相見積もりに入らない会社は何をやめたか

~ 自社工房で年3500着をつくる会社が、店舗を11から2に減らした製造小売の事例

売上を伸ばしながら、利益率を上げる 藤屋式ニッチトップ戦略の藤屋です。

売上を伸ばす方法を考えると、たいていは「増やす」話になります。

拠点を増やす・人を増やす・設備を増やす・品目を増やす

ところが、逆に動いた会社があります。
埼玉県北本市に自社の縫製工房を持ち、年間約3500着をつくっている会社です。

採寸と接客の技術者は、店に常駐。

つくって、売る。製造小売です。

その会社が、店を11から2に減らしました。
それでも売上は落ちず、経常利益率は二桁が4年続いています。

■つくる力は残し、売る場所を減らした

オーダースーツの銀座英国屋です。

  • 2020年3月期は11店舗、売上高14億3000万円
  • 2026年3月期は4店舗、売上高14億8700万円
  • そして、いまは2店舗、社員65人です。

その間、縫製工房の年間約3500着は、変えていません。
減らしたのは、売る場所です。

経常利益率は、2010年代はおおむね一桁台前半でした。
直近4年は、二桁が続いています。

固定費が減ったから、と読めます。
それも事実です。

ただ、それだけなら、店を閉めた会社はどこでも利益率が上がるはずです。
順番が、逆でした。

■増やしていた時代にも、理由はあった

最盛期の1989年は、42店舗、売上高100億円超、社員500人。
百貨店から声がかかれば、出店していました。

店を増やして、店長の席を増やしてやりたい、という思いもあった。
採算を深く見ないまま出した店もあった、と現社長は語っています。

しかし、バブルが崩れると、広がった店舗網と人員が、そのまま重荷になりました。

増やすことに、理由はありました。
ただ、その理由は、顧客の側から来たものではありませんでした。

先に決めたのは、誰を客にするか

社長交代後、最初に手をつけたのは価格でした。
安売りをやめたのです。

当時は、8万円台でオーダースーツを受ける催事もありました。
いまの最低価格は、24万2000円(税込)です。

なぜ、やめられたのか。
客を見ていたからです。

常連客は、年収2000万円を超える経営者などの富裕層でした。
買う力のある客を抱えながら安売りをすれば、利益は削れ、ブランドも傷みます。

だから、価格で選ぶ客を、客にしない。
これを先に決めました。

一つ決まると、残りが動きだす

◆価格

安売りをやめ、適性価格へ戻す。
地方百貨店の不採算店は閉じる。

◆提供方法

客単価は最低でも20万円を超えます。
通りかかった人が、その場でフルオーダーを注文することは、ほとんどありません。

採寸、仮縫いのフィッティング、納品で、受け取るまでに3回ほど来店します。
だから来店客の多くは、動機のはっきりした予約客です。

予約客が大半なら、路面店である必要はない。
地方の顧客も、出張で東京や大阪に来ます。
広い店舗網を要する事業ではありませんでした。

銀座2丁目の旗艦店は、売上の3割強を稼いでいました。
ただし家賃は年間1.5億円超。売上14億円台の会社には重い。
この旗艦店を2021年6月に閉店しています。

11店舗から4店舗にした時点で、損益分岐点売上高は25%下がりました。
年間2500人の顧客がいれば利益は出る、という水準です。

◆強み

接客とフィッティングの技術者は、店に常駐。
縫製は子会社の工房が担い、埼玉県北本市で年間約3500着をつくっています。

この製販一体は、そのまま維持しました。
人手が要る事業です。つくる側は、減らしていません。

◆メッセージ発信

メッセージ発信の役割を担う店舗を減らした分、別の入口が要ります。
2021年にWebサイトを刷新しました。

それまでは、生地の美しさや店の雰囲気を伝える内容でした。

これを、セミオーダーとフルオーダーのフィッティングの違い、実際にドラマや映画で使われていることなど、フルオーダーを選ぶ理由が分かる内容へ変えました。

20万円を超える価格へのためらいを下げるため、接客と採寸の無料体験も用意しています。

いま、新規顧客が売上の33%。
以前は新規客の大半が55歳以上でしたが、いまは5割近くが20〜40代です。

顧客層&市場には、軸が2本ある

それは、選び方と属性です。
価格で選ぶ客は、客にしない。ここは狭めました。

年齢は、55歳以上から20〜40代へ広がりました。
選び方は狭め、属性は広げた。

矛盾ではありません。
狭めたから、広げられたのです。

同じ問いを、御社に置き換えると

・図面が来れば、たいてい受けられる。
・材質もロットも、幅広く受けられる。
・短納期の相談も、断らずに受けている。

その幅の広さは、今、目標とする売上と粗利益率に合っていますか。

幅広く受けられる会社には、幅広い引き合いが来ます。
そのかわり、相手も幅広く見比べます。

同じ図面が、競合の何社かに回る。
戻ってきた見積りが、単価と納期で並べられる。

そこでは、技術の違いは備考欄になります。
顧客が発注先を決める要素は、単価と納期です。

技術力で選ばれることもあります。
ただ、選ばれても、価格と取引条件は前回のまま据え置かれる。

そして、他社も同じ対応をしてきます。
同質競争は、そうやって循環します。

相見積もりに入るのは、相見積もりに入る客を、客にしているからです。

だから、他社と比べられない状態をつくる

他社が対応したがらないニーズに、自社だけが応える。
そこは、他社と同じ土俵ではありません。
だから、価格と取引条件の主導権が、自社側に移ります。

ドラッカーは、この市場地位をエコロジカル・ニッチと呼びました。

英国屋がそこまで到達したと言い切れる材料は、記事にはありません。
ただ、動いた方向は同じです。
他社と同じ物差しで比べられる要素を、一つずつ減らしています。

戦略設計の6変数は、どこから見直してもOK

事業戦略は、6つの変数で決まります。

強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

表記はこの順です。
ただし、どこから手をつけるかは、会社によって違います。
課題も着眼点も違うので、違うのが当然です。

英国屋は、顧客層&市場をどう見るかで、価格と提供方法の答えを出しました。

大事なのは、「どの変数から手を付けるか」ではありません。
最後に、6つの変数が整合していることです。

戦略設計の6変数は、足し算ではなく掛け算です。

一つでも噛み合わなければ、全体は動きません。
逆に言えば、一つだけ動かしても、すぐに、残りの5つが元の形のまま引き戻します。

動かし方は、5通りです。

維持する、減らす、強化する、捨てる、創る。

たとえば、
・店舗網は、減らすと捨てる。
・製販一体の技術は、維持する。
・自社を選ぶ理由を伝える発信は、創る。

増やす前に、比較されるどの戦略変数から外れるかを決める

  • 品目を増やす
  • 営業を強化する
  • サイトを作り直す
  • 展示会に出る

どれも、それ自体は間違っていません。
ただ、比べられる場所にいたまま打ち手を足しても、並べられ方は変わりません。

増やす前に、決めることがあります。
どの物差しから外れるか。

英国屋は、年間3500着という縫製数の上限を、撤廃することもできます。
しかし、撤廃していません。

人手が要る事業なので、規模を追えば利益率が下がるからです。
規模は小さくても、高い収益を上げ続けられる道を選んでいます。

他社と比べられない戦略設計の変数で、価格と取引条件の主導権を持つ。
そのうえで、売上を伸ばす。
これが、売上を伸ばしながら、利益率を上げる、ということです。

※ 藤屋式では、売上の拡大を先に着手する「増収増益」ではなく、価格と取引条件の主導権を先に取り戻す「増益増収」と考えます。売上を増やして確実に増えるのはコストであり、利益が増えるとは限らないからです。

今の売上と利益率の推移は、いつまで続くか

同じ物差しで比べられている限り、並べられ方は変わりません。
戦略設計の6変数の噛み合わせが変わるまで、この状態は続きます。

仕事が切れているわけではない。
数字だけ見れば、悪くない。
だから、いま急いで変える理由も、見当たらない。

では、その数字が続いている間に、どこから見直すか。

見直す対象は、個々の戦略変数ではありません

戦略設計の6変数の組み合わせが、いまの市場と噛み合っているかどうかです。
御社の6変数は、いま、噛み合っているでしょうか。

その全体像と、どこから見直すのかを、下記の90分セミナーでお話ししています。

◆藤屋式ニッチトップ戦略|設計入門セミナー

・90分・Zoom開催・10社限定
・参加特典:藤屋式AI参謀 カスタム指示(簡易版)/設計フォーマット 177問(簡易版)

セミナーの詳細を見る

◆あわせて読む

藤屋式ニッチトップ戦略とは(6変数と5指針の中身)

技術力があるのに利益率が上がらない理由

* 出典:日経ビジネス「オーダースーツ銀座英国屋の復活劇、店舗数減らし増収 現在2店舗」(2026年7月13日、日本経済新聞電子版に転載)