選択と集中とは何か|モノづくり企業が、強みを増やしても利益率が上がらない理由

売上を伸ばしながら、利益率を上げる。
藤屋式ニッチトップ戦略で、モノづくり企業の戦略設計を支援している藤屋伸二です。

経営の本やセミナーでは、よく次のように言われます。

  • 強みを伸ばす
  • 新しい商品を創る
  • 新しい顧客を開拓する

どれも、間違っていません。

しかし、こうした取り組みを続けているのに、売上をさらに伸ばす方法が見えず、利益率も技術力に見合っているとは言えないとしたら。

何を見直せば、変わるのでしょうか。
新しいものを加えることではなく、すでにあるものを減らし、捨てることかもしれません。

戦略再設計の5指針とは

藤屋式ニッチトップ戦略では、戦略を再設計するときに、5つの指針を使います。

  • 維持する
  • 減らす
  • 強化する
  • 捨てる
  • 創る

このうち、着手しやすいのは「強化する」と「創る」です。

  • 既存の技術をさらに磨く
  • 商品の機能を増やす
  • 新しいサービスを加える
  • 新しい顧客層を開拓する

いずれも、現在の事業に何かを加える判断です。

一方、「減らす」と「捨てる」は、現在の事業の一部をやめる判断です。
そのため、簡単には決められません。

捨てると、売上は落ちるのではないか

ここで、一つの疑問が生まれます。
減らせば、売上が減るのではないか。
捨てれば、顧客が離れるのではないか。

しかし、伸ばすべきなのは、売上そのものではありません。
利益の出る売上です。

捨てるとは、売上を減らすことではありません。
減らすのは、利益を生みにくい売上です。

強みを分散させている売上。
他社と比較される状況での売上。

そこに使われている人材、設備、時間を、選んだ顧客に集中させます。
そして、選んだ顧客から得る、利益の出る売上を伸ばします。

他社と比較される状況のまま売上を伸ばそうとすれば、価格や取引条件で応えることになります。

だから、売上は増えても、利益率は上がりません。
比較される状況を変えるからこそ、売上を伸ばしながら、利益率を上げることができます。

「維持する」は、意識して決めた結果でしょうか?

5指針の中で、「維持する」には二つの状態があります。

戦略上の理由があって、意識して維持しているもの。
判断しなかった結果として、残っているもの。

商品にも、取引にも、提供方法にも、この二つは混在します。
外から見れば、どちらも同じ「継続中」です。
しかし、意味は違います。

判断しなければ、維持が初期設定になります。
そのまま残っているため、見直しの対象にも上がりません。

だから、「何を捨てるか」を考える前に、確認すべきことがあります。
何を、なぜ維持しているのか。

維持する理由を言葉にできるものは、維持すればよい。
理由を言葉にできないものは、5指針のどこに置くかを、あらためて決める対象です。

直近1年で下した経営判断は、5指針のどれに当たるでしょうか。
そして、維持すると決めた覚えのないものは、残っていないでしょうか。

捨てる判断が難しいのは、失敗していないからです

売れていない商品なら、やめる判断は比較的容易です。
採算が合わない取引であれば、見直す理由も明確です。

本当に判断が難しいのは、一定の売上があり、顧客も存在し、社内に対応できる技術や経験もあるものです。

続けようと思えば、続けられる。
だから、見直す理由が見えにくくなります。

しかし、続けられることと、これからも続けるべきことは同じではありません。
その商品や取引を維持することが、自社の強みを活かしているのか。

それとも、限られた人材や設備、時間を分散させているのか。
現在の売上だけを見ていては、この違いは判断できません。

技術を磨くだけでは、選ばれる理由にはなりません

技術を磨けば、対応できる仕事は増えます。
対応できる仕事が増えれば、相談される範囲も広がります。

しかし、何にでも対応できる会社になるほど、顧客から見た違いは分かりにくくなります。
どの顧客の、どのようなニーズに対して、自社が最も適しているのかが、外から見えなくなるからです。

その結果、技術力ではなく、価格や納期、対応範囲で比較されます。
強みが足りないから比較されるのではありません。
強みを使う対象が定まっていないために、その違いが選ばれる理由として認識されていないのです。

見直すのは商品だけではありません|戦略設計の6変数

戦略の再設計で見直すのは、商品だけではありません。

強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信。

これが、戦略の構造です。
足し算ではなく、掛け算です。
一つでも整合が崩れれば、戦略全体は機能しません。

商品を減らしても、顧客層&市場が業界のままなら、同じ比較が続きます。
顧客層&市場を絞っても、すべての要望に応える提供方法を維持すれば、社員の負担は減りません。
価格を見直しても、メッセージ発信が他社と同じであれば、価格の違いだけが目立ちます。

この戦略設計の6つの変数それぞれを、

  • 維持する
  • 減らす
  • 強化する
  • 捨てる
  • 創る

という5指針で見直します。

そのうえで、6つ全体が一つの戦略として整合しているかを確かめます。
だから、「何を捨てるか」だけでは足りません。

見直した後の6変数が、一つの戦略として成立するところまで設計する必要があります。

選択と集中とは、数を減らすことではありません

選択と集中というと、商品数や顧客数を減らすことだと理解されがちです。
しかし、数を減らすこと自体が目的ではありません。

自社が対応すべきニーズを選ぶ。
そのニーズに対して、

強み × 商品 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信

を集中させる。
これが、選択と集中です。

選ばなかったものを減らし、捨てるからこそ、選んだ顧客に対する適応度が上がります。

他社が対応できない、あるいは対応したがらないニーズに対して、自社だけが適応している。
その結果、他社との比較が意味を持たなくなります。
この市場地位を、エコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)と呼びます。

これは、「マネジメントの父」と呼ばれているドラッカーが示した概念です。
具体的には、次の状態です。

  • 顧客を選べる
  • 選んだ顧客から、指名される
  • 価値に見合う適性価格で取引できる
  • 取引条件を、自社から提示できる
  • 他社に代替されにくい

今の売上と利益率は、今の戦略の構造が生んでいます

価格と取引条件の主導権は、強みを増やした結果として得られるものではありません。

何を維持し、何を減らし、何を強化し、何を捨て、何を創るか。

戦略設計の6変数の一つひとつについて判断し、全体を整合させた結果として、自社に戻ります。

他社と比較される状況は、業界の宿命ではありません。
いまの6変数の構造が生んだ結果です。

だから、6変数を再設計すれば、比較される状況は変えられます。
そして、構造が変わらないかぎり、いまの状態は続きます。

今の売上と利益率は、今の戦略の構造が生んでいます。
では、今の状況は、いつまで続くでしょうか?

⇒ なぜ、技術力は、売上伸長につながらないのか?

詳しくは、こちらです。