「値上げできる」という錯覚|インフレが剥がれたとき、御社の適正価格は受け入れられるか
「うちも値上げできる」と、多くの経営者が思い始めた
ドラッカーをベースに、モノづくり企業に価格と取引条件の主導権を取り戻すための藤屋式ニッチトップ戦略の普及浸透をめざしている藤屋伸二です。
さて
日銀短観に、興味深いデータがあります。
日銀は2014年から、企業に2つの見通しを聞いています。
「自社の販売価格」と「物価全般」。
この2つの上昇率の見通しです。
2021年までは、ほとんどの企業が「自社の販売価格は、物価全般ほど上げられない」と答えていました。
長く続いた低インフレ。
その中で、多くの企業が値上げに悲観的でした。
ところが2022年以降、関係が逆転します。
「自社は他社より販売価格を上げられる」。
そう答える企業が、一貫して増えたのです。
そしてこの傾向は、大企業より中小企業で顕著でした。
他社より大幅に上げられると思い始めた企業が、増えています。
ここに、見過ごせない「矛盾」がある
この調査には、大きな矛盾があります。
一般物価とは、各企業の販売価格の平均です。
だとすれば、全企業が「自分だけは他社より上げられる」と思っていても、平均すればその差は消えるはずです。
つまり、
大半の企業の「うちは値上げできる」は、横並びの楽観にすぎません。
あなたが上げられたのは、他社も同じように上げているから。
インフレが、価格を上げてくれただけです。
相対的な位置は、何も変わっていません。
値上げには、2つの種類がある
ここで、整理しておきたいことがあります。
世の中の値上げには、2つの種類があります。
ひとつは、インフレ便乗型の値上げ
原油高、物価高に押されて、みんなが上げているから上げる。
価格の主導権を握っているのは、外部環境です。
あなた自身ではありません。
だからインフレが収まれば、価格や取引条件の主導権は剥がれ落ちます。
もうひとつは、主導権型の価格設定
他社が対応したがらないニーズへ、自社だけが対応している。
その結果、他社と比較されなくなる。
だから物価動向に関係なく、価値に見合った適性価格が受け入れられます。
日銀短観が映し出しているのは、前者です。
そして日銀は今月、政策金利を1%に引き上げました。
インフレ加速への対応です。
楽観が剥がれ始める、その始まりかもしれません。
適正価格は続くのか
だから、問うべきはここです。
・いまの値上げは、インフレが上げてくれたのか?
・それとも、御社の魅力が上げたのか?
・インフレが収まったとき、適正価格は維持できるのか?
・元に戻るのか?
・そもそも、値上げで、御社の望む適正価格になったのでしょうか?
・コスト上昇分を吸収しただけなのでしょうか?
横並びの楽観が剥がれたあと、価格と取引条件の主導権を握っているのは、誰ですか?
「値上げできた」のに、なぜ楽にならないのか?
もうひとつ、見落とされがちな現実があります。
価格転嫁が進んだ。
公正取引委員会も「適正な価格転嫁は当然だ」という社会規範をつくろうとしています。
取引適正化法も施行されました。
それなのに、
価格を上げても、利益が見合って増えない企業が、数多くあります。
・短納期。
・小ロット。
・特急対応。
・休日対応。
・他社が対応したがらないニーズに応えている。
・技術力に自信がある。
・それなのに、顧客を選べない。
・面倒な案件を断れない。
・社員が疲弊する。
・将来への投資原資が、厚くならない。
ここでわかります。
問題は、価格ではありません。
他社が対応したがらないニーズへの、対応の仕方です。
価格転嫁は、結果です。
他社と比較されない状態をつくれなければ、値上げをしても、いずれ元に戻ります。
適正価格とは、横並びから抜け出した価格
楽観に流された値上げと、主導権を握った価格設定は、別物です。
続く値上げとは、他社と比較されない価格です。
なぜ、あの会社だけが、あの価格で受け入れられるのか?
この問いに答えられる状態をつくること。
それが、価格と取引条件の主導権です。
市場の中で順位を上げるのではありません。
横並びの競争から、抜け出すのです。
「値上げできる時代」は、見方を変えれば「価格そのものの希少性が失われていく時代」です。
多くの企業が値上げできると思うほど、価格で抜きん出ることは難しくなります。
だからこそ、次に問われるのは、他社と比較されない状態です。
大切なのは、価格を変えることではありません。
他社と比較されない会社になることです。
インフレが上げてくれた価格は、インフレとともに去ります。
残るのは、その価格が受け入れられる理由です。
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