なぜ値上げができないのかではなく、なぜ値上げ前提でないのか
藤屋伸二です。
適性価格を実現できず、価格や取引条件の主導権を持てない中小モノづくり企業を対象に、生態学的市場地位を設計する経営コンサルタント。
【藤屋式ニッチトップ戦略】で高収益体質へ転換します。
- 原材料が高騰しているが、すべて価格に転嫁できない。
- 競合が安値で攻めてきているから、うちは据え置くしかない。
経営相談の現場で、最も多く聞かれる悩みの一つがこの「値上げ」に関することです。
しかし、ニッチトップ戦略の視点から言えば、この悩み方自体がすでに戦略的な敗北を意味しています。
問うべきは「どうやって値上げをするか?」ではありません。
「なぜ、あなたの経営は値上げ(=利益の増大)を前提とした設計になっていないのか?」という、構造の根幹に対する問いです。
値上げが、「勇気のいる決断」になっている時点で、あなたの会社は顧客に生殺与奪の権を握られています。
その隷属的な構造から抜け出すための、根本的な方法をお伝えします。
■値上げできない理由の錯覚
値上げができない理由を尋ねると、多くの経営者は「市場相場があるから」「顧客に拒絶されるから」と答えます。
しかし、これは単なる思い込み、あるいは「言い訳」に過ぎません。
現実に、同じ業界、同じような商品を扱いながら、涼しい顔をして高い利益率を維持し、定期的に価格を改定できている会社は存在します。
彼らとあなたの違いは、営業力の差でも、ブランド名の有名無実でもありません。
「最初から、値上げを受け入れざるを得ない構造」を作っているかどうかの差です。
値上げができない最大の原因は、あなたが「比較可能な市場(土俵)」で戦っていることにあります。
他社と同じスペック、同じサービス、同じ便利さを売りにしている限り、価格を上げれば、顧客が他所へ流れるのは当然の帰結です。
つまり、「値上げできない」と嘆くことは、自ら「うちは他社と代わり映えのしない、どこにでもある会社です」と宣言しているのと同じなのです。
■価格は交渉ではなく戦略設計
「利益は元にあり」という格言があります。
経営における価格とは、現場での交渉の結果、決まるものではありません。
事前の「戦略設計」によって、決まるべくして決まるものです。
値上げができない会社は、価格決定の主導権を「戦略の外」に置いています。
- 「これくらいが妥当だろう」という業界の慣習
- 原価を基にした価格設定法
- 「他社はこの金額だ」という顧客の提示
- 「これ以上上げると売れない」という営業担当者の弱気
これら外部要因に振り回されている状態を、私は「自立的な経営」とは呼びません。
真の経営とは、自社の存続と発展に必要な利益から逆算し、その価格を正当化するための価値を構造化することです。
「値上げをお願いする」という発想を捨ててください。
私たちが目指すのは、「価格改定のお知らせ」を送った際に、顧客が「それなら仕方ない。
むしろ、「貴社に潰れてもらっては困るから、その価格で継続してくれ」と納得する関係性です。
そのためには、顧客にとっての「スイッチングコスト(他社に切り替えた際の損失や手間)」が、値上げ幅を遥かに上回るように設計されていなければなりません。
■値上げできない構造の本質
値上げを前提としない経営は、ゆっくりとした自殺と同じです。
インフレ、労働コストの上昇、技術革新への投資……。
これらすべてに対応するには、粗利益率や、販売費及び一般管理費を加味した営業利益率の向上が不可欠です。
貴社今の価格に固執している本当の理由は、顧客への愛着ではなく、「選別されることへの恐怖」ではないでしょうか?
価格を上げれば、一部の顧客は去っていくでしょう。
しかし、その去っていく顧客こそが、実は、貴社の会社の利益を最も食いつぶし、経営資源を停滞させている「不適切な顧客」である可能性が高いのです。
この「適切な顧客だけが残り、利益が最大化される構造」こそが、「エコロジカル・ニッチ(生態学的市場地位)」に基づく戦略設計です。
生態学的市場地位とは、価格や取引条件の決定権を持つ構造です。
この地位を築いた会社にとって、値上げは「リスク」ではなく、自社の価値を市場に再認識させ、より質の高いサービスを提供するための「健全なプロセス」になります。
この構造への転換を実現するためには、【強み、商品、提供方法、価格、顧客層・市場、メッセージ発信】という「6つの戦略変数」を、最初から「高付加価値・高収益」を維持できるように整合させなければなりません。
「いつか景気が良くなれば、価格を上げられるだろう」という淡い期待は捨ててください。
景気はあなたの会社の価格を決めてくれません。
価格を決めるのは、あなたの戦略設計思想だけです。
◆ 次回予告
「今月もなんとか目標達成だ」と胸をなで下ろす。
なのに、なぜか将来への不安が消えない。
次回は、「売上はあるのに未来が不安な会社の正体」をお届けします。

