他社にはない技術は、どこで強みになるのか
売上を伸ばしながら、利益率を上げる ニッチトップ戦略の藤屋伸二です。
他社にはできない。それでも業績は大きく変わらない
- 同業他社にはできない加工ができます
- 設備も入れました
- 長年の積み重ねで、社内にしかない知見もあります
- 同業者が見学に来て、驚かれることもあります
それでも、粗利益率・営業利益率は思うように上がりません。
そのような状態で、難しい案件に対応し続けています。
- 他社にはできないはずなのに、なぜそうなるのでしょうか?
- 他社にない技術は、どこで強みになるのでしょうか?
「他社にない」と「価値がある」は、別の判断
「他社にない技術」というとき、比べているのは他社です。
同業の設備、加工範囲、精度、扱える材質。
その中で、自社が持っていて、他社が持っていないものを見ています。
これは自社の側から見た事実です。
一方、「価値がある」というのは、顧客の側から見た判断です。
- その技術によって、これまでできなかったことが可能になる
- 工程が変わる
- 新商品ができる
- 品質や性能が変わる
だから顧客は、その技術に対価を払います。
この二つは、同じではありません。
他社にできない技術でも、それを必要とする用途でなければ、顧客にとって大きな価値にはなりません。
逆に、技術そのものは他社にもあるとします。
それでも、商品、提供方法、顧客層&市場などとの組み合わせによって、他社が対応しにくい形で、特定顧客のニーズに応える事業になることがあります。
技術そのものに価値がないという意味ではありません。
技術は、事業を支える重要な資産です。
ただし、その技術がどこで大きな成果につながるかは、技術の中身だけでは決まりません。
他社との差だけでは、技術をどこまで高めるかは決まらない
他社との技術差を見ることには意味があります。
- 自社の技術水準を知る
- 他社がどこまでできるのかを見る
- 次に何を開発すべきかを考える
これらは、必要な情報です。
ただし、他社との差だけでは、その技術をどこまで高めるべきかは決まりません。
- 精度をさらに上げる
- 加工範囲を広げる
- 新しい設備を入れる
その結果、他社との差は広がるかもしれません。
しかし、その違いが特定顧客のどのような価値につながるのか。
ここまで見なければ、事業としての強みになるかどうかは分かりません。
たとえば、±1μmから±0.5μmへ精度を高めたとします。
その違いを必要とする用途がなければ、顧客の判断は大きく変わりません。
一方、ある顧客層は、その精度でなければ成立しない製品や工程がある。
それなら、同じ0.5μmの差が決定的な意味を持ちます。
技術差が顧客価値につながる場所まで見て、初めて、その技術をさらに高める意味が見えてきます。
ドラッカーは、強みが生きる場所をどう考えたか
ドラッカーは、成果は強みの上に築くものだと考えました。
弱みを平均まで引き上げることより、強みを成果につなげることを重視します。
ただし、強みを持っているだけで成果になるわけではありません。
事業の成果は企業の外にあります。
自社では高度だと考えている技術が、ある用途では過剰かもしれません。
反対に、別の用途では、その技術が大きな価値を生むことがあります。
だからドラッカーは、次のように問いました。
- われわれの顧客は誰か?
- 顧客にとっての価値は何か?
強みがあるかどうかだけではありません。
その強みが、誰の、どのような用途で大きな価値になるのか。
ここまで見る必要があります。
どこで強みになるかは、自社の中だけでは決まらない
自社の技術を理解することは必要です。
- 何ができるのか
- どこまでできるのか
- 他社と何が違うのか
- どういう経験が蓄積されているのか
しかし、その技術が事業上の強みになるかどうかは、自社の中だけでは確定しません。
同じ技術でも、用途によって生み出す価値が変わるからです。
そこで、見る方向を変えます。
- この技術によって、何が可能になるのか
- 顧客の工程で、何を変えられるのか
- 何を省けるのか
- これまでできなかった何ができるようになるのか
- そして、その変化が最も大きな意味を持つ用途はどこにあるのか
これらは、現在の顧客の用途とは限りません。
これまで取引したことのない業界で、その技術が大きな意味を持つこともあります。
同じ技術でも、用途が変われば価値が変わる
たとえば、岐阜県羽島市のテクナード。
シリカゲルを素材に加工した消臭・吸湿機能シート「シリカクリン」を開発しました。
靴のインソールやアウトドア用品など、さまざまな商品へ展開してきた企業です。
2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大でマスク需要が急増します。
その中で同社は、国内で開発していた材料を使ってマスクの商品化に取り組みました。
そのとき、感染症流行前から取引のあった大手楽器店が、同社のマスクに着目しました。
普通のマスクでは、管楽器を演奏するときに外さなければなりません。
そこで両社は、装着したまま木管楽器や金管楽器を演奏できるマスクを共同開発しました。
小規模企業白書は、この取り組みを、ニッチながら一定の需要が見込める新しい市場を開拓した事例として紹介しています。
重要なのは、まったく新しい基盤技術を開発したことではありません。
同社が持っていた素材加工や商品開発の力を、別の用途に向けたことです。
同じ「マスクをつくる技術」で考えれば、多くの企業と並びます。
しかし、「楽器を演奏するときにも使える」という用途まで具体化する。
そうすると、必要とされる商品が変わります。
藤屋式ニッチトップ戦略で見ると、技術の希少性だけを見た事例ではありません。
持っている技術や材料が、どの用途なら大きな価値になるかを見つけた。
そして、その用途に合わせて商品を変えた事例と捉えられます。
(出典:中小企業庁『2021年版小規模企業白書』)
モノづくり企業の場合
技術を、強みという一つの変数だけで考えないことです。
事業を構成しているのは、次の6つの戦略変数です。
強み × 商品&商品構成 × 提供方法 × 価格 × 顧客層&市場 × メッセージ発信
技術が強みになるかどうかは、他の変数との組み合わせによって変わります。
ただし、これらの順番は、企業によって違ってきます。
- どのような商品&商品構成として出すのか:同じ技術でも、部品として出すのか、完成品にするのか、他の技術と組み合わせるのか。また、商品構成はどのようにするか。それによって顧客に生まれる価値は変わります
- どういう提供方法にするのか:仕様が固まってから加工を受けるのか。設計段階から関与するのか。共同開発まで行うのか。これらによって、技術が生きる場面が変わります
- 価格をどう考えるのか:その技術によって顧客に大きな価値が生まれる用途なら、相場や原価だけで価格を考える必要はなくなります
- 誰に向けるのか:現在の顧客だけを見て、その技術の価値を判断する必要はありません
- 何を伝えるのか:「当社は○μmまで加工できます」という技術の説明だけではありません。それによって顧客の何が可能になるのかを伝えます
一つひとつの変数に、他社にない独自性が要るわけではありません。
組み合わせによって、特定顧客にとって他社と比べる意味が薄れる事業に近づけます。
他社にない技術が、事業を考える出発点になることはあります。
しかし、それだけでは到達点にはなりません。
- その技術が、誰の、どのような用途で大きな価値になるのか
- 他の戦略設計の5変数とどう組み合わせるのか
そこまで具体化して、技術を事業の強みにしていきます。
技術は、どこに置くかで意味が変わる
他社にはできない技術を持っていることは、重要な資産です。
だからこそ、他社との差をさらに広げることだけを考えるのではありません。
その技術がどこで最も大きな成果を生むかを考えます。
同じ技術でも、ある用途では過剰で、別の用途では大きな価値を生むことがあるからです。
技術を高めることと、技術が成果を生む場所を見つけること。
この二つは、別の作業です。
- 自社の技術によって、顧客の側では何が変わるでしょうか?
- その変化が最も大きな意味を持つのは、どのような用途でしょうか?
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